望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから
「そうですか……ですが、シャーロットはハビエルとの仲をゆっくり進めていきたいと主張していて……」

 そうそう。そうなのよ。嬉しいけれど、これなの。命の危険はあるけれど、別にハビエル様の恋愛や結婚が嫌だという訳ではない。

 ええ。命の危険はあるけれど。

「何を……そんなはずはない……失礼だが、言葉が出ぬほどに喉を痛めているというのは、本当だろうか。エリアス……君がシャーロットを狙っているがために、俺たち二人の仲を邪魔しているのでは?」

 胡乱(うろん)げな眼差しでエリアスを見たハビエル様。私がチラリと隣を見たら、隠せないくらいに面白そうな表情になっているエリアス。

 ええ。そうですよね。私は『今夜は帰りたくない』と言ってしまった身。ゆっくりと仲を深めたい子が、そんなことを口にするはずもなくて。

 私たちにそんな色気のある関係性なんて、ぜんっぜん、そんなことはないのよ! エリアスは私のことを、手の掛かる妹程度にしか思って居ないもの! 今だって『この面白い事態をどうしてくれよう』くらいにしか、思ってないのよ!

「いえいえ……誤解しないでください。僕はバダンテール伯爵を継がねばならぬ身。彼女の夫はアヴェルラーク伯となるので、僕らは結婚出来ません」

「っ……! 許されぬ恋か。悪いが、エリアス。どうとしてでも、貴公にシャーロットは渡さないぞ」

 キリッとした美形な男性に『渡さない』と言われると、どんな状況でもときめいてしまうものだと、私はその時に初めて知った。

 ……そこまで来て、エリアスはもう我慢の限界だったのか、唐突に笑い出し、私も隣で大きくため息をついてしまった。

 ……ハビエル様。見た目は特上と言えるほど素敵だけど、思い込みが激しすぎよ……!



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