望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから
 自分に正義感を持って真実を伝えようとした部下は、全員即日解雇されてしまうと言う。そんなおかしな事が身の回りで起こっているのに、ハビエル様は不思議に思わないなんて……あるだろうか。

「……下がって良い。ロイクも医者に診てもらえ。そこの馬車に団医を連れて来ている。シャーロットは俺の邸に呼んである医者に診てもらうことにする」

 私は自分に寄り添う、ハビエル様の顔を見上げた。キリッと美麗なお顔は、とても格好良い……ではなくて、多くの部下を統率する指揮官としての厳しさが溢れる表情。

 そうよ。こんな、誰もが口を揃えて褒めるような、優秀な人が……あんなにわかりやすい好意に気が付かないなんて、有り得るんだろうか。

 私の視線に気が付いたのか、彼はにっこりと微笑んで安心させるようにして背中を軽く叩いてくれた。

「シャーロット。馬車へ行こうか。エリアスも君が見つかれば、俺の邸へと来てくれることになっている」

 あ。そっか……私いま、行方不明で見つかったばかりだから、多分アヴェルラーク伯爵邸は大変なことになってしまっているかもしれない。

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