忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。

28話 処刑台へ

 処刑執行の日がやってきた。

 牢の闇の中、看守の足音がいつもより重く響いた朝。鉄の扉が軋み、開く音が、私の心を抉る。淡いランプの光が差し込み、看守の無表情な顔が現れる。

 「時間だ。魔痕の女、処刑を執行する」

 事務的な声が、冷たく響く。鎖が外され代わりに手を縄で縛られた。絶望に心を覆い尽くされる。ティアラの言葉が、頭の中でリフレインしている。

『赤竜の覇団は壊滅したわ』

 諦観が体を支配する。もう何も希望は残されていない。なら、もういいか……。そう想う。死ねば皆の所へ行けるかもしれない。ロクな人生じゃなかったかもしれないけれど、最期に少しの間だけでも普通の日常を送ることができた。私にしては頑張ったほうではないでしょうか。これ以上を望むのは高望みだ。

「さっさと来い!」

 番人が私を引っ張り牢から連れ出す。地下の通路は湿気が濃く壁から滴る水音が、葬送曲のようにも聞こえた。足元は冷たい石畳で靴越しでも冷気が伝わってくる。

 通路の先、階段を昇ると処刑台のある広場へ連行された。天気は晴れ、私の心はこんなに沈んでいるというのに憎らしいほど陽光が降り注いでいた。
 処刑台の前には警備の騎士が控え、広場では魔痕の女の最期を見るために見物客の民衆でごった返していた。設置された貴賓席の檀上では父である領主が冷たい視線を送り、ティアラはにこやかに手を振っている。聖騎士アーサーは周囲を警戒しつつ直立、控えていた。

「…………」

 処刑台の上で絞首刑を行うための縄が揺れていた。

「登れ」
 看守に押され階段を昇り始める。

 一段一段、足を上げるたび、体が重くなった。階段はとても長く永遠に続くようにも感じられる。群衆のざわめきや罵る声をBGMに聞こえた。ここには私を人として見る好意的な声も馴れ馴れしく声をかけてくる男の声もない。

 階段を昇っている途中、足がふらつき転びそうになる。吐き気を覚え体は震え、冷汗が流れていた。だけど涙だけは流すまいと耐える。

 よろよろ足を動かしながらついに階段を昇り切った。絞首台のある場所では私の首にロープをかけるための死刑執行人が帽子を目深に被り待ち構えていた。「魔痕の女だ!」「処刑しろ!」そんな民衆の叫びが、耳に刺さる。

 あぁ、私は今日ここで死ぬのだ。

 公開処刑という娯楽として私の死は消費される。悪い魔痕の女は死んでハッピーエンドだ。

 さようなら世界、次に生まれかわったらもう少し明るい女性になれるといいな。そしたら……人の好意を真っすぐに受け止められるかもしれない。
 覚悟を決め絞首台の前に立つ。



 
「よぉ。随分と陰気な面ぁしてやがるな」



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