第二作★血文字の囁き★
 ① 序章 ― 声のはじまり

 夜更けのアパートに、雨音が静かに降り続けていた。
 大学生・藤崎沙耶は机に向かい、明日のゼミに備えて参考資料を読み漁っていた。
 その中に、一枚の切り抜きが混じっていた。

 地方紙の記事。記者・相沢亮介の署名がある。
 タイトルには、こうあった。

 「廃屋に残された血文字 二十年前の失踪事件」

 記事は、村ぐるみで隠蔽された神谷家一家の失踪を告発するもので、壁や床に浮かび続ける血文字についても触れていた。
 読み進めるうちに、沙耶は背筋をなぞられるような奇妙な感覚に襲われた。

 ――耳の奥で、何かが囁いている。

 最初は風の音かと思った。
 けれど、それは確かに言葉だった。

 「……ゆるして……」

 心臓が跳ね上がり、沙耶は振り返った。
 部屋には誰もいない。窓も閉め切られている。
 しかし、机の上の切り抜きから、にじみ出すように赤黒い染みが広がっていた。

 「……っ!」
 紙を放り投げると、そこには震える文字が浮かび上がっていた。

 「ごめんなさい」

 恐怖で声も出ないまま、沙耶は後ずさった。
 その瞬間、耳元で再び囁きが響いた。

 「つぎは あなた」

 翌朝、藤崎沙耶は忽然と姿を消した。
 残されたのは、机に置かれた血に濡れた紙片と、微かに響く「声」の残滓だけだった――。
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