クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 今日この後、自分が店舗にやって来るのは彼女も既知のはずだ。にもかかわらず、恋の話で声色ひとつ変えない。自分は意識されていないと言われているも同然だ。
 智田はため息をのみ込み、なんでもないふうを装ってスタッフルームへと入った。

 ミーティングでは彼女とふたりきりだ。彼女は相変わらず、売場改変案を要領よく進めてくれているようだった。
 自分とのことを水に流し、真摯に仕事に取り組んでいる。そんな彼女を見て、失恋したとショックを受けている場合でないと自分に言い聞かせる。

(彼女が別の誰かと幸せになれるならそれでいいじゃないか。仕事で彼女をそばでサポートして成功に導けるなら、上司としてこの上ない喜びだ)

 彼女の上司という立場。それはつまり、仕事でなら彼女のために動けるということ。彼女への気持ちをそうやって無理やりに割り切り、未練を断つ。

 不動は自分ではない、誰か別の人と幸せになる。そう思うと、自然と彼女の前でドジをしなくなっていった。


 やがて季節は移り変わり、梅雨の時期になる。売場改変案まで一ヶ月を切ったその日、智田は彼女の支えとして完璧に動いていた。

 ミーティングルームで、他店の店長向け説明会のセッティングをする。モニターが映ることをチェックしていると、続々と地域の店長たちがやってきた。

「智田SV、お疲れ様です」

 そう言って自分の近くにやってきたのは島崎店長だ。

(彼女の店舗運営、まだまだ不安なんだよな)

 三月に着任した、新人店長。やる気は人一倍あるようだが、智田は彼女との会話にいつも辟易していた。

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