クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「また」

 タクシーに乗り込んだ私に、智田SVはそう言って座席のほうへ身を乗り出す。

 と、彼の頭が扉の縁にぶつかってしまった。鈍い音が車内に響き、運転手がこちらを振り返る。

「大丈夫? お兄さん」
「ええ、大丈夫です」

 真っ赤になったおでこをさすりもせず、智田SVは淡々とそう告げる。だが彼の頬がほんのり赤くなっているのに気づき、やっぱりかわいいと思ってしまった。
 つい頬が緩んでしまいそうになるのをこらえ、私は智田SVにぺこりと頭を下げた。

「お疲れさまでした。タクシー、ありがとうございます」
「ああ、気をつけて」

 彼がそう言うと、静かに扉が閉まる。

(なんでもないふう、装えたよね? ここで動揺を悟られたら、傷つけてしまうかもしれないもの)

 すっかり暗くなった夜道をタクシーに揺られながら、私はふうと息をつく。
 だがすぐ先ほどの彼の様子を思い出し、くすりと笑みがこぼれてしまった。

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