クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 ――ダンっ!

 突然の大きな音。智田SVが、ドアの枠に手をついたのだ。どうやら、足元の小さな銀色の段差に躓いたらしい。

「あの、大丈夫で――」

 言いかけて、言葉が引っ込んでしまった。
 彼は口元を右手で隠しつつ、瞠目していたのだ。耳まで、真っ赤に染めながら。

 彼はそのままこちらを見る。困惑した視線は、「なにも見ていないよな」と言いたげだ。

 だが、その視線は私の胸を一気に高鳴らせた。

(か、かわいい……っ!)

 クールな上司の、意外な一面。普段とのギャップついそう思ったけれど、声に出かけた「かわいい」はすんでのところでのみ込んだ。
 智田SVは咳払いをすると、もとの体勢と表情に戻ってしまう。

「お先に失礼する」

 智田SVは早口でそう言い、何事もなかったかのように立ち去った。

 ひとり残されたミーティングル―ムの中、私の胸は高鳴り続けていた。
 だけどすぐ、強く自分に言い聞かせる。

(これは〝恋〟じゃない。過去の恋を、引きずってるだけ)

 彼の〝ドジ〟にひどく心を揺さぶられてしまった。そんな自分を、誤魔化すように。

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