クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
(萎縮しちゃうスタッフもいるけれど、私にとっては理想の上司。言動に無駄がないし、どこまでもスマートな人)

 見送りのために私も立ち上がりながら、そんなことを思った。

 彼は紺色のジャケットの上に黒いリュックをひょいと背負う。次の店舗に向かうまでも、きっとスマートなのだろう。
 移動中の彼を想像し、私も彼のようにスマートでありたいと思いながら口を開く。

「また明日。資料への加筆、ありがとうございました」
「ああ。分からない点があったら聞いてくれ」
「はい」

 端的に答え、背を向ける上司に頭を下げる。その時だった。

 ――ガチャ、ガチャガチャ。

 ドアノブを回す音は聞こえるのに、扉が開く音がしない。あれ、と思って顔を上げる。

(もしかして――)

「智田SV、内開きです」
「あ、ああ」

 そう答える彼の声は、いつもより小さい。無事扉を開けた彼は、こちらを振り返らずにそのまま扉の外に一歩踏みだそうとした。

「おっと」

 彼が体のバランスを崩したのと、そう言ったのはほぼ同時だった。

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