クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
『でも、不動さんがそこで運命の人と出会うとは限らないだろう?』

 最初はそんな相槌で聞いていてくれた茅野も、智田の酒が進むと段々と厳しい口調になる。

『そんなに後悔してるなら、今からでも変われ』

 叱咤激励を受けるも、その頃には智田は酒に飲まれていた。

 気がつくと、タクシーに乗っていた。隣に不動がいて驚いたが、すぐに夢だと悟った。状況が、あまりにも自分に好都合すぎたからだ。

 礼を言い、キザな笑みを浮かべてみる。どうせ夢なら、先ほど茅野に言われた『変われ』の言葉を、試してみようと思ったのだ。
 やってみると、意外とすらすら台詞が飛び出る。しかも自分の言動に対する不動の反応も、自分に都合の良いものばかりだ。

 智田は部屋に入ると、たまらなくなり不動にキスを乞うた。

(やればできるじゃないか)

 この夢は、自分に自信を持たせるためのもの。きっとそうだと思い込み、彼女の唇に触れようとした。

 ――ところで、これが現実なのだとやっと気がつくことになった。

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