クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 思わず目を見開き彼女を見上げた。つい彼女の言葉を疑問系で繰り返してしまったが、彼女が青ざめているのに気がつきはっとした。

『ごめんなさい、他意はないです』

 いっぱいいっぱいになりながらもそう言う彼女を見て、確信した。『かわいい』は、彼女なりの精一杯の配慮の言葉だろう、と。
 案の定、彼女は自分から逃げるように早足で去って行った。


(失望しただろうな)

 智田は情けなさにため息をこぼしながら、立ち上がる。

 彼女への恋心のアピールはうまくいかず、ドジばかりだった。だから、ドジをしないように慎重に行動していたはずだった。
 だが、彼女を前にすると心が抑制できない。高揚感でいっぱいになってしまう。

(仕事ならPDSサイクルを回せば、それなりにうまくいく。だから恋もそうできると、思ったんだが)

 恋は、仕事や毎日のサイクルとはまるで違う。計画通りに実行できた試しがない。

(俺はどれだけ、恋に向かないのだろう)

 明かりもつけていない部屋の中に、窓を叩く雨の音がやたらと響いている。
 智田は重たい体をソファに預けた。そこに寝転びながら、額に手を当て天井を仰ぐ。

 苦しそうに下唇をぎゅっと噛みしめる彼の頭の中には、不動への謝罪の言葉と売場改変案の引き継ぎが既に浮かんでいた。

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