クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「それはダメです」

 智田の声を遮って、不動は強い口調でそう言った。いつの間にか俯いていた智田は、はっと顔を上げる。
 不動は居心地の悪そうな顔をしていた。だが、彼女の口から紡がれたのは意外な言葉だった。

「売場改変案は、智田SVと作り上げてきたものです。だからせめて、それが無事終わるまでは異動なんてしないでください」

 彼女はこちらをしっかりと見て、そう紡いだ。

 真剣な瞳で自分を見上げる彼女の必死さに、鼓動が速まっていく。智田は胸の高鳴りを抑え込みながら、その脳で必死に考えた。

(仕事においては、信頼してくれているということか?)

 そうであれば、自分がしなければならないことはひとつ。誠心誠意を尽くし、彼女とともに売場改変案を成功させ、モデル店舗としてのこの店舗のスタートに最後まで尽力することだ。

「ありがとう。細かい点でもなんでも、相談してくれ。問題が生じたらひとつひとつ吟味して、本部や他店の照会や意見が必要なものはこちらで引き受けるから遠慮せずに伝えて欲しい」

 恋心などで、彼女のキャリアを邪魔するな。
 智田は自分にそう言い聞かせ、三か月後の売場改変までは彼女の頼りがいのある上司でいようと胸に誓う。

「わかりました。今後とも、よろしくお願いします」

 不動はそう言って、智田に右手を差し出す。

「こちらこそ、よろしく頼む」

 力強い不動の言葉に胸がきゅっと苦しくなるのをごまかしながら、智田は優しくそっと、彼女の手を握った。

< 88 / 206 >

この作品をシェア

pagetop