少女マンガの主人公になりたかったのに、"残念"なイケメン達に愛されてます
少女マンガの主人公のマネ
『私は上原凜奈!どこにでもいるフツーの中学2年生! 』
少女マンガは 大抵こんな感じの自己紹介から始まる。そして"どこにでもいる普通の"とか言いながら、絶世の美女だったり、めちゃくちゃ完璧だったりする。そんな主人公に憧れる私は、そりゃもうめっちゃ頑張った。オシャレやメイクも、大嫌いな勉強も。
そして!ついに!!その努力を披露する日が来たのだ!
親の都合で編入することになった学校が、イケメンだらけらしいのだ。ずっと憧れていた少女マンガの主人公になれるかもしれない!可愛い女の子の友達も作って、彼氏も作る。たくさんの男の子に愛されなくていい。私が好きになった男の子、その人だけに、大切に愛されてみたいんだ。そのために、頑張ってきたんだから!私はドキドキと高鳴る胸を落ち着かせて、ベットに横になった。
ピピピピーピピピピー
目覚ましの音を止めて、新品の制服に着替えた。現在時刻、8時。遅刻ギリギリだ。でも私は慌てたりしない!遅刻ギリギリになるために、昨日遅くまで起きていたのだ。
なぜかって??
そう!少女マンガといえば、遅刻ギリギリにパンをくわえて登校!そしてイケメンとぶつかりフォーリンラブ!
私は急いで、でも丁寧にメイクをして、髪を結った。
キッチンに行って、目玉焼きを焼く。食パンの上に乗せて、マヨネーズをかけて焼いて....。うん、美味しそう。上出来だ。それをくわえて、カバンを持って靴を履く。手鏡を出して、前髪を微調整。
「よし!今日の私も超かわいい!!」
鏡の中の自分に、心の内でモチベーションの上がる言葉をかけて家を出た。
可愛く小走りしながら登校する。
「遅刻遅刻〜〜~!!」
え、今の私の声めっちゃ可愛くない??優勝☆
あーでもパン食べたい。食パンの上に乗った目玉焼きが美味しそうで仕方がない。
でも、食べたい思いをぐっと我慢する。だってこれから、イケメンとぶつかるかもしれないしね!
その時だった。
ドンッ
「あだっ」
どうやら人とぶつかったらしい。痛い。尻もちをついたみたいだ。見上げると、、、、イケメン!!
前髪をセンター分けにした茶髪に、驚いてさらに大きく見開かれた目は綺麗な緑色だ。一瞬見とれてしまった。
「ぷっ」
そのイケメンは、私を見て吹き出した。私の脳内は?だらけだ。
「お前さん、なんやさっきの『遅刻遅刻〜〜~』って!しかも食パンくわえとるやん!何?少女マンガにでも憧れたんか?」
笑いすぎて涙が止まらないらしい。そのイケメンは私に手を差し伸べてあげるでもなく、心配するでもなく、爆笑している。
……なんだコイツ!!???
腹立つな!いくらイケメンでも私の事バカにしすぎだろ!
「ハハ!は、腹痛ぇ!!」
今度は笑いすぎてお腹が痛いらしい。
そんなに痛いんだったらアンタの腹ぶん殴ってもっと痛くしたろか。
「て、てかその制服ウチのやんな?なんでこっちにいるん?ウチの学校、向こうやで」
爆笑イケメンは私が向かおうとしていた逆の方向に指を指した。
「え?」
「まさか迷子か?夏休み終わったばかりやからって記憶力どうかしてんとちゃう?」
爆笑イケメンはまた笑い出す。腹立つなホントに。編入してきたんだし道なんて知らないのよ!
「教えてくれてありがとーございます」
でも、まあ私はいい子なのでちゃんとお礼は言うよ。睨みながらだけど。
「ええでええで!朝からおもろかったし。さ、そろそろ行こか。」
爆笑イケメンは私に笑いかける。
え、一緒に登校してけれるの??これは少女マンガ的なシチュエーションなのでは!?
と思って期待した私が馬鹿だった。爆笑イケメンは走って先に行ってしまった。
「急がんと本当に遅刻やで〜〜!」
と笑いながら。
何秒か呆然としていた私だけど、流石に編入初日に遅刻はまずいので走って学校に向かった。爆笑イケメンへの怒りは忘れることにした。だって、これからイケメンパラダイスが始まるかもしれないし!
「編入してきた上原凜奈です!よろしくお願いします!」
昨日鏡でいっぱい練習した笑顔で挨拶をすると、教室少し騒がしくなった。コソコソと小さな声で話をする女子生徒。密かに友人と目を合わせる男子生徒。
ふっふっふ。聞こえてますよ!「可愛くない?」「それな!」「彼女にしたい…」「お前じゃ無理だろ笑」などなど。
でしょでしょ!私可愛いでしょ!えっへん。もっと褒めてもいいんだよ。
機嫌が良くなった私は、自分の席に着いて、近くの生徒に挨拶をした。右隣の子も、前の子も優しく笑いかけてくれた。のに!
「げ、隣女子かよ。最悪」
左の男子は私を見て顔を顰めた。
顰めている割に、顔はイケメンだった。癖のある黒髪に、釣りが上がった目で、瞳は綺麗な海の色。スポーツをしているのか、肌は少し日焼けしていた。
そんな完璧なルックスでも、口が悪ければ意味がない。
だってさ普通にヒドくない??顔みて『げ』って。口だけじゃなく顔まで『げ』って言ってるよ?ヒドいな!
『げ』しか言えないのかよ!雨の日の道端にいる蛙かよ!いくらイケメンでもさ!言っていいことと悪いことあるよね!舌噛みちぎったろか!
私がワルいことを考えているのがわかったのか、ゲコゲコイケメンはもっと顔を顰めてそっぽ向いた。
こっちだって、アンタなんかとは仲良くするつもりないし!
……転校初日に嫌われるなんて、私可哀想。
あの後、先生に学校を案内してくれると言うので、大人しく着いて行った。少女マンガなら、ここはイケメンが案内してくれるんだろうけど。あいにく私の理想のイケメンはまだ出会えてすらない。
はぁー。少女マンガの主人公になるの、大変だよ〜。
学校の案内を一通り終えると、先生は私を職員室の前に連れて立ち止まった。
「ああ、そうそう。貴女に伝えないと行けないことがあるんだったわ。」
先生は綺麗な髪を耳にかけて私を見た。
「貴女に、生徒会に入ってほしいの。」
………え?
いやなんで??私転校初日ですよ?この学校の一番の初心者じゃん!そんな私に生徒会だなんて任せていいのか??
「色々事情があるのよ」
事情…?なんか大変なやつかなぁ。
「実はこの学校の生徒会、無いも同然なくらい仕事が回ってないのよ。生徒会長も困っていてね。なんせ皆個性が強いものだから……」
わぁおびっくり。生徒会長もお手上げな生徒会メンバーってなんだ。イケメンかな?イケメンならまあ……。いや、今朝の爆笑イケメンや隣の席のゲコゲコイケメンとかは絶対嫌だけど。
「貴女は編入試験でも成績が良かったし、生徒会でも十分やって行けるわ。頑張って!」
先生はにっこり笑った。
「えっ、待っ…」
そして、私の返事を聞かずに先生は職員室に入っていった。
え、私が生徒会に入るの、もしかしなくても決定事項……?
えーー。どうしよう。
悩んでいる時に、ちょうど職員室に入っていくメガネの先生がいたから話しかけてみる。
「あのー、ここの生徒会について、教えて欲しいんですが…」
「ん?ああ、編入生だね。生徒会はなー、んー……生徒会長は頑張ってるよ。皆を上手くまとめようとしてるけど、仕事を真面目にやってるのは彼くらいかな。副会長は自由人すぎるし、書記は会話が苦手でコミュニケーションが取りにくいし、会計係は気が向いた時にしか仕事をしないし、唯一の救いだった雪村も、男ばっかりの生徒会にウンザリしてやる気がないし……。」
先生は形のいい眉を下げて苦笑いする。つまり、ここの生徒会はだいぶやばいらしい。
「それ、もはや生徒会じゃなくないですか??」
「いやーそうなんだけどさ。生徒みんなをまとめるにはいいメンバーなんだ。女子生徒の人気が半端なくてね。男子生徒は、生徒会長が何とかまとめてくれるし。
人気すぎて半端な人に生徒会を任せられなくて、けど雪村さんが女子生徒が生徒会に欲しいって言ってたし、君が適任かなって。」
雪村って人、チャラ男なのかな?でも、生徒会メンバーが女子から人気ってことは全員イケメン!?これは都合がいい。少女マンガでよくある生徒会のイケメンメンバーとフォーリンラブってやつだ……!
「やります!生徒会、是非やらせてください!」
勢いよく言い切った私に、先生はパッと笑顔になった。
「よろしく頼むぞ」
私はまだ分かっていなかった。この時先生が、私が"適任"だと言った理由を─────。