やっぱり君が好きだ
 次の日と朝、いつも通りお母さんに起こされ、のんびりとテレビを見ながら朝食を食べていた。
 すると、ふいにスマホに電話が来た。みると、陽人君のお母さんからだった。陽人君のお母さんに何かあったら、と言われ交換していた。ぼんやりとしていたが急に目が覚めた気がした。
「もしもし。」
「あ、花凛ちゃんね。」
 少し焦った声で話し始めた。
「実は、陽人の具合が少し良くなくてね。もしかしたらもう、ね。」
「えっ。」
 体を突き飛ばされたような気持ちになった。思考が追いつかなかった。
「だから、病院に来てもらえるかな?」
 陽人君のお母さんの声でハッとした。
「分かりました。すぐに行きます。」
 食べていたパンを口に詰め込み、お母さんに欠席連絡を入れてもらうよう伝えると、私は病院へと向かった。どういうこと、お母さんがそう言ってたような気がするけど振り切ってきた。

 病室に入ると、冷たすぎる空気が広がっていた。その中で、陽人君のお父さんとお母さんが陽人君の左手を握っていた。
「花凛ちゃん...。」、
 陽人君のお母さんが、目を赤くして私に気づいて声をかけてくれた。お父さんは黙って陽人君を見つめていた。
 私は、陽人君のベッドに行き、右手を握った。まだ温かった。薬指には指輪をつけていた。
「なんで...。昨日指輪くれたのに。」
 ふいに涙が出てきた。まだ泣いたらダメだって分かってるのに。
 陽人君の顔はいつも通り穏やかだった。陽人君が、笑顔で優しく手を握ってくれたことが遠い記憶のように感じられた。
「陽人君...。起きてよ...。」
 まるで魔法がかかったように陽人君の目が開いた。
 陽人、そうお母さんとお父さんがイスから立ち上がった。
「ありがとう。」
 陽人君は優しく微笑み、今までに聞いたこともないくらい弱々しい声で言った。そう言ってまた陽人君は眠った。
 それと同時に、心電図モニターが激しい音を鳴らした。
 扉が開き、お医者さんと看護師さんが入ってきた。お医者さんは、陽人君の脈を確認し、瞳孔に光を当てた後、ご臨終です、と静かに述べた。
 陽人君のお母さんは、嗚咽を漏らしながら泣き出し、お父さんはお母さんを支え、私はただ静かに涙を流していた。
 みんなが泣き止んだ後、陽人君のお父さんが鞄から封筒を取り出し、ゆっくりと立ち上がり、私に近づいてきた。
「花凛ちゃん、ありがとう。花凛ちゃんのおかげで陽人の短い人生は楽しかったと思う。これは陽人が亡くなったら渡してって言われてたから。」
 私はただ頷き、封筒を受け取った。
 私は静かに病室を出て、昨日行った公園へと向かった。
 昨日一緒に座ったベンチに座ると、なぜか隣に陽人君がいるような気持ちになり、また涙が出てきた。
 封筒を開けると手紙が入っていた。
「花凛へ
 この手紙を読んでるってことは僕はもうこの世にいないんだろうね。
 でも花凛にどうしても伝えたいことがあったからこの手紙を書きました。

 まず、花凛ほんとにありがとう。
 花凛と出会えて、僕は本当に幸せでした。
 花凛と過ごした日々は、どんなに短くても、僕の人生で一番輝いていた瞬間でした。
 でも、これだけはお願いしたい。
 花凛の人生を、僕のために生きてほしくない。
 花凛には花凛だけの未来があるから。
 だから、もし僕がいなくなった後に、誰か他の人を好きになったら、その人と心から幸せになってほしい。
 僕のことなんて忘れてもいい。
 花凛が笑顔でいられることを僕は一番に望むから。
 最後に、花凛、ありがとう。
 あなたと出会えて本当に良かったです。
 幸せでいてね。
 陽人より」
 なにこれ、私は小さく呟いた。忘れるわけないじゃん。陽人君と過ごした宝物のような日々を。だから私もこれだけはと思い、空に向かって伝える。
「絶対忘れないよ。だからお互い元気に生きようね。」
 涙を拭き、私は公園を出た。陽人君はいつでも心の中にいる。だから、私は今日も元気に生きる。
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