最終作★血文字の終焉★
 ④ 終幕:終焉の意(選択)

 救済型(鎮魂のエンド・完成版)

 少女の影が最後に残した「さよなら」の文字を見届けた瞬間、地下室の血文字は次々と剥がれ落ち、白い壁が現れていった。
 呻きのような声も、恨みの残響も、すべて静かに消えていく。

 私は呆然と立ち尽くしながらも、胸の奥に確かな解放感を覚えた。
 ――もう、誰も血に縛られることはない。
 長きにわたる告白はようやく終わり、犠牲者の魂は眠りについたのだ。

 外に出ると、夜明けの光が差し込んでいた。
 長く閉ざされていた村の空気が、初めて穏やかに澄んでいるように感じられた。
 私は振り返り、静まり返った廃屋を見つめた。

 そこにはもう血文字はなかった。
 ただ、風に揺れる窓枠のきしみが、まるで「ありがとう」と囁いているように聞こえた。



 絶望型(呪縛のエンド・完成版)

 壁に浮かぶ無数の血文字が、一斉にこちらへとにじみ寄ってくる。
 逃げ場はない。

 次の瞬間、私は壁に押しつけられ、自らの指が勝手に動き始めていた。
 「やめろ……!」
 だが指先は止まらず、血で壁に書き続ける。

 ――「ほんとうの黒幕は わたしだ」

 視界が赤に染まり、呼吸が途絶える。
 終焉とは、つまり自分の命そのものの終わりだった。

 ……はずだった。

 だが壁の血文字は止まらない。
 私が倒れ込んだあとも、見えない指が勝手に走り続け、赤黒い線が壁を埋め尽くしていく。

 呻き声が重なり、笑い声が混じり、やがて一つの叫びとなった。

 「ゆるして」「ごめんなさい」「ありがとう」「これで終わり」

 全ての声が渦を巻き、最後に浮かび上がった言葉は――

 「つぎは おまえだ」

 地下室の灯りがふっと消えた。
 血文字は今もどこかで刻まれ続けている。
 私の死は、ただ新たな告白の始まりにすぎなかった。


 曖昧型(怪異の余韻エンド・完成版)

 崩れかけた地下室に、ただ静寂が訪れた。
 血文字はもう一つも残っていない。
 私は壁を撫で、深い安堵を覚えた。これで終わったのだ、と。

 ……そう思った瞬間だった。

 ポケットの中で手帳が震えた。
 開くと、そこには赤黒い字で新しい一文が浮かんでいた。

 「また あえる」

 背筋に冷たいものが走る。
 果たして終わったのか、それともこれから始まるのか――答えは誰にも分からない。

 ただ一つ確かなのは、手帳のページが勝手にめくられていく音が、今も耳から離れないということだった。
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