「捨てられ王妃」と呼ばれていますが私に何かご用でしょうか? ~強欲で身勝手な義母の元には戻りません~

【7】簒奪の勧め(6)

 その週の終わりに三度目の晩餐会が開かれた。
 参加したのは前回と同じ八名である。

 和やかに食事が進んでいたが、デザートのプディングにスプーンを入れたところで、リリーが眉間に皺を寄せた。

「クリスティアン、何か悩み事でもあるの?」
「「「え……?」」」

 驚いて顔を上げたのは、ヘーゼルダイン以外の全員だ。
 ジャスミンがリリーを見た。

「どうしてそんなことを聞くの? お母様」
「だって、なんだか元気がないし、顔が強張っているもの」

「いつもこんな感じではないか?」

 グレアム卿がヘーゼルダインを目で示す。

「ヘーゼルダイン閣下は、表情の変化が極端に少ないですからね。『氷の宰相』と呼ばれているのも納得です」 

 レイモンドが続け、皆が笑った。
 笑っていないのはヘーゼルダインとリリーだけだ。

 そもそも、ヘーゼルダインは笑わない。
 ほぼいつもこういう顔なのだが……。

 プディングにスプーンを残したまま、リリーは眉間の皺を深くする。

「何かあるなら話して」

 ヘーゼルダインは無表情のまま、自分のプディングに視線を落とした。

「言いにくいことなのね?」

 一同、黙る。
 再び、ジャスミンが聞いた。

「なんで、わかるの?」

 ジャスミンの問いは、この場にいる全員の問いでもあった。
 少しの間、沈黙が続く。
 やがて、ヘーゼルダインが口を開いた。

「ご相談があります」
「なあに? 是非、言ってちょうだい」

 リリーがどこかほっとしたように促す。
 だが、ヘーゼルダインの次の言葉を聞くと、今度は全員の眉間に皺が寄った。

「第二王子、ギルバート殿下とアイリス様に、この国を治めていただきたい」
「……どういう意味?」

 リリーは再び困惑する。

「お二人に、王と王妃になっていただきたいのです」
「それは、無理だ」

 グレアム卿が首を振った。

「我が国の定めに反する。第一子が王位に即くことは、ゆるがせにできないしきたりだ」
「はい。ですが……」

 表情のない顔でプディングを見下ろしたまま、ヘーゼルダインが続ける。

「ノーイック様がいなくなれば……」
「それは、もちろん、ギルバート殿下が継ぐことになるが……」

 困惑気味に返すグレアム卿にヘーゼルダインが視線を移す。
 それからギルバートを見た。

「では、お願いします」
「何をだね?」

 訪ねたのはグレアム卿だが、ヘーゼルダインはまっすぐギルバートを見て言った。

「王になっていただきたい」
「ヘーゼルダイン、何を……」

 ゆるゆると首を振るギルバートの言葉を遮り、ヘーゼルダインが低い声で宣言した。

「私が、ノーイック殿下を弑します」
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