Pandora❄firstlove
約束
あの日から3日後ぐらいだろう。
「こんにちは、司先生。早速中に入りましょう」
肉食系とはこの事かと、感心したくなるようなさりげないピンクを所に入れてくるコーデは何だか背筋が凍るものがある。
ーーーまぁ、ノコノコとやっている俺も、馬鹿なのだろうが。
頑張るに越したことはない。
なので早速、彼女が行きつけの居酒屋に足を運ぶ。
居酒屋を選ぶ所も、自分が可愛いから落ちるだろうと狙っているんだとしたらーーー恐ろしい魔女だ。
そう考えたら鋭い頭痛のようなものがしたが、振り払って。
古民家のような居心地はした店内。
確かにお酒を飲んでいる輩はいたけれど、そこまで客足は悪い奴はいない。
「食べ物、どうします?」
「え………あぁ。逆に何がおすすめなんです?」
「ここですね、鶏皮が美味しんですよ」
その後は他愛もない話をして、何とか乗り切ったがーーー何というかこの人は、やはり肉食系何だと悟った。
話を聞いている限り、すべての男が私の手取りになってしまうのよねという感じがして、何となく馬が合わない。
「早速ですけど、司先生は好きになった人はいるんですか?」
「………好きになった人」
「初めて好きになった人の事を、聞かせてくださいよー」
「そうですね………そうだな」
ここではぐらかすと、彼女は自分のことを探りに来たのかと目的を知られてしまうことになるだろう。
ここはっきり言って、嫌われてしまったほうが話が早いかもしれない。
別に職員室では多少なりとも嫌われているし、一人になるには俺はもう慣れている。
だが、仕事に支障がでそうと考えるとーーー手が止まった。
なんで、なんだ?
何をそんなに、怖がってる?
「やっぱり………相当忘れられないんですね」
「違う」
「え?」
「そんなんじゃない」
「お………怒ってます?」
「そんなんじゃないんだ」
俺は震える手を、押さえてビールを飲み干す。
何で俺はこんな簡単な事を、言い出せずにいるんだ?
いえばいいだろ。
ーーー俺は昔、母親が好きだったーーー
そう言って、嫌われてしまえばいいんだ。
この目の前の女に。
魔女に。
そしていっそ目の前の魔女に嫌われて、また居場所を奪われても、俺はへっちゃらだ。
なのにーーーなぜいまここにきて?
ーーー先生、世界って広いって信じる?ーー
愛が笑った顔が、目の前に現れた。
その笑った顔はキラキラと太陽の光を反射して。
俺は………こいつと一緒にずっといたいと思ったーーー。
だから、だから怖いのか?
この生徒との未来をーーー奪われるのが?
一体、なぜ?
「やっぱり、好きなんですね。愛の事」
「へ?」
「ずっと見てましたもん。あの愛の奴」
急に魔女の顔が豹変する。
それはーーー紫色のリジュネを着た世にも美しいーーー母親。
「か………母さん?」
「私は、あなたのことを思って、ここまでしてあげたのに。どうして振り向いてくれないわけ?」
周りの景色は、元々いた俺の家。
母さんと住んでいた家。
「ねぇ、答えてよ!!!」
あまりの気迫に俺は居た堪れなくなって、意識を手放した。
*