その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
「……なんだか、不思議。あなたの家で、こうしてまた隣に座ってるなんて」

前回は、勢いもあったと思う。けれど、今回は…違う。

「俺はずっと、こうなれたらって思ってましたよ」

「え?」

「叶わない夢だって、思ってたけど」

その静かでまっすぐな声に、胸の奥がキュッとなる。

仕事で少しずつ近づいた距離。
だけど、彼の想いは、いつから?
戸惑う気持ちのまま、気づけば詩乃の指先が、そっと湊の手に触れていた。

湊は少し驚いたように瞬きをして、優しくその手を包む。

「詩乃さん」

「うん……」

「今夜は、ただ隣にいられるだけで十分です。でも──もし、もう一歩進んでもいいって思ってくれたら……きっと、止まれないです」

低く掠れた声が、胸に沁みる。

迷いはある。だけど、彼の手に触れていたい。それだけで、心が溶けていくようだった。
そっと、詩乃は湊の肩に額を預ける。

「ねぇ、橘くん。ちょっとだけ、わがまま言ってもいい?」

「もちろん。なんでも言ってください」

「キスして……名前、呼んで。たくさん、抱きしめてほしい」

湊はふっと微笑んだ。

優しくて、切ないのに、どこか幸せそうな笑顔で。

「任せてください」

そして、額に、頬に、唇が触れてくる。
まるで心に触れるようなキス。あたたかくて、優しくて、涙がにじみそうになる。
 やがて、ふいに湊が耳元で囁いた。

「……詩乃さん」

「なに?」

「俺も、ちょっとだけわがまま言っていいですか?」

「……うん?」

「“湊”って、呼んでほしいんです。二人の時だけでいい。名前で呼んでほしい」

 その言葉に、胸の奥がきゅっとなる。
名前を呼ぶだけなのに、こんなにも照れて、嬉しくて、どうしようもなくなる。

「……湊くん」

その声を聞いた瞬間、湊の瞳がわずかに揺れて──

「詩乃さん、かわいすぎ」

そう言って、後頭部に手を回し、優しく引き寄せて唇を重ねた。

「……ん」

「……口、開けて?」

そっと言われた言葉に応えると、すぐに舌が絡んできて、甘く深く、呼吸を奪っていく。

「あ、ふ……っ」

重なる唇。絡まる舌。粘り気を含んだ音が、静かな部屋に響いた。
(気持ちいい……)
怖いと思ったはずのこの距離が、今はただ、愛しくて。
彼のすべてが、心に、身体に、静かに入り込んでくる。

「……詩乃さん、ほんとに、綺麗」

彼の指が、そっとTシャツの裾に触れる。慎重に、丁寧に、彼女の気持ちを確かめるように。やがて肌に触れた瞬間、肩がぴくりと震えた。
 けれど湊は何も言わず、ただ背中を包み込むように優しく撫でる。

「嫌だったら、すぐにやめる。でも……俺は、触れていたいです」

その真っ直ぐな言葉に、心が強く揺れた。

「……やだなんて、言わないよ」

そっと唇を重ね返しながら、首に手を回し、湊の腕に身体を預ける。そして、彼の腕の中で抱き上げられベッドへと向かう──
静かな夜の中、車の音が遠ざかっていく。柔らかなベッド。脱がされていくTシャツ。
羞恥と、嬉しさと、どうしようもない愛しさに胸がいっぱいになる。
 湊の視線が、宝物を扱うように真剣で、愛おしそうで。

「詩乃さん……」

名前を呼ばれるたび、鼓動が跳ねる。

胸元、鎖骨、首筋、肩。
一つひとつを丁寧にキスでなぞっていく唇に、呼吸が甘くなる。
(もう、戻れない……でも)
この夜が、どうか終わらないでほしい──
そう願ってしまうくらいに、彼のすべてが優しかった。
けれど、ふと胸に浮かぶ小さな不安。
(本当に、これでよかったのかな……)
でもその迷いごと、湊の腕は優しく包み込んでくれた。
──それだけで、答えはもう、わかっていた。
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