その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
 湊がシャワーを浴びている間、詩乃はリビングのソファにそっと腰を下ろしていた。
借りたTシャツの袖を指先でくるくるといじりながら、早鐘のように鳴る胸の音をどうにか落ち着けようとする。

けれど、無理だった。
──さっきのキスが、頭から離れない。
まだ唇に、湊のぬくもりが残っている気がした。
背中に回された腕の感触も、名前を呼ばれたときの低い声も、すべてが鮮明に蘇る。
(……もう、戻れないかもしれない)
Tシャツから、湊の匂いがする。それだけで、心臓が早鐘を打ち、落ち着かない。
その甘さと、どこか怖さの混じる感情に胸がぎゅっとなる。
シャワーの音が止まり、しばらくしてドアの開く音。
近づいてくる足音に、自然と呼吸が浅くなる。

「詩乃さん」

顔を上げると、濡れた髪をラフにタオルで拭きながら、湊が立っていた。

着替えたTシャツとスウェット姿。
スーツの時とは違う、柔らかい雰囲気。
けれどそのラフさが、妙に距離を近く感じさせた。

「おかえり、橘くん」

「ただいま。……待たせてごめんなさい」

「ううん、ありがとう。シャワー、助かった」

「詩乃さんになら、いつでも使ってほしいです」

微笑みながら、彼は詩乃の隣に腰を下ろす。
距離は、ほんの少ししか空いていない。
ただ並んでいるだけなのに、隣にいる湊の存在が、すぐそこに熱を持って伝わってくる。

石鹸の香り。体温。呼吸のリズム。
すべてが、愛しくて、怖い。
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