その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
夕暮れの街。

手には紙袋、心には小さな温度を抱えながら、湊と並んで歩く。
一緒に選んだぬいぐるみと絵本と服。
それを見せる姪っ子の顔を思い浮かべて、湊がふと笑った。

「喜ぶかな、これ」

「うん、きっと喜ぶよ。湊くんが選んだんだもん」

「詩乃さんのアドバイスがなかったら、俺、絶対変な服とか買ってたと思います」

「それはそれで、面白かったかもね?」

そんな、なんてことない会話が心地よくて。
だけど、駅が近づくにつれて、だんだん言葉が減っていった。
別れの時間が、そこまで来ている。

「……今日は、ありがとうございます」

先に口を開いたのは、湊だった。

「こっちこそ。楽しかったよ。姪っ子ちゃんの話、いっぱい聞けたし」

「たまには、こういうのも悪くないですね」

「うん、ほんとに」

改札前、人の流れに押されるようにして立ち止まる。

「……じゃあ、また」

そう言って、湊がゆるく笑う。
いつもなら、ここで「うち来ます?」って聞かれるのかもしれない。
でも今日は、そんな言葉はどこにもなかった。
だから私も、それに触れないまま、静かにうなずいた。

「うん。またね」

電車に揺られながら、窓に映る自分の顔をぼんやり見つめた。
ほんの少し、胸の奥が、きゅっとなる。
不思議だった。
何かを期待していたわけじゃないのに。
一緒にいられた時間があたたかかったからこそ、
そのぬくもりが名残惜しくて。
“また”があるといいな、なんて。
らしくないことを、思ってしまった。
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