不幸を呼ぶ男 Case.3
第一章:プロローグ

​【不幸を呼ぶ男 Case.3】


第一章:プロローグ

日本は
stagnating (停滞)していた
長引く不況
増え続ける税金
そして
繰り返される政治家たちの汚職
国民の、政治への不信感は
すでに、頂点に達していた
​そんな中で
参議院選挙の火蓋が、切って落とされた
​与党である、巨大保守政党**「民政党(みんせいとう)」**
彼らの選挙活動は、いつもと同じだった
高級料亭での、密談
大企業の労働組合への、締め付け
そして
駅前で、老政治家が、誰の心にも響かない、空虚な演説を繰り返す
彼らは、まだ、自分たちの「盤石な地盤」を、信じて疑わなかった
​だが
国民は、もう、うんざりしていたのだ
​そこに
一つの、新しい風が吹いた
新興政党**「日本覚醒党(にっぽんかくせいとう)」**
​彼らの選挙活動は、全く違った
武器は、SNSと、YouTube
そして、ドブ板選挙
カリスマ的な魅力を持つ、若い党首が
マイク一本で、街頭に立ち、叫び続けた
​『我々は、この国を、国民の手に取り戻す!』
『腐りきった永田町を、一度、ゼロにする!』
​その、あまりに真っ直ぐで
あまりに過激な言葉は
これまで、政治に無関心だった
若者や、サイレントマジョリティーの心を
確かに、掴んだ
​そして、運命の、投開票日
テレビの選挙速報は
異様な熱気に包まれていた
​アナウンサー:「えー、開票率1%の段階ですが……」
アナウンサー:「日本覚醒党、まさかの、当確です!」
​コメンテーター:「……信じられません」
コメンテーター:「これは……革命、ですよ…」
​結果は
歴史的なものとなった
日本覚醒党は、改選議席の三分の一以上を獲得し、大躍進
一方
民政党は、目標を大きく下回り、事実上の、歴史的大敗を喫した
​その、翌日
首相官邸で
やつれた顔の総理大臣が
力なく、頭を下げた
​総理:「……選挙結果を、真摯に受け止め」
総理:「内閣総理大臣を、辞任する、決意であります」
​一つの時代が、終わった
だが、それは
新たな、混乱の時代の、始まりに過ぎなかった
誰もが、まだ
そのことに、気づいてはいなかった



【首相官邸】

神崎恭平は
無数のフラッシュを浴びながら
深く、深く、頭を下げた
日本の総理大臣として
彼が、国民の前に姿を見せる
最後の瞬間だった
選挙の大敗
その全ての責任を取る形での、辞職
会見場は
記者たちの怒号と
シャッター音の洪水に包まれていた
数日後
日本は、政治の空白期に突入した
与党・民政党は、トップを失い
次のリーダーを、決めなければならない
誰が、この沈みかけた船の、新しい船長になるのか
国民は、固唾をのんで、見守っていた
そして
三人の男女が
ほぼ、同時に、名乗りを上げた
一人目は
黒川 皐月(くろかわ さつき)
元防衛大臣
党内最大派閥である、保守派の急先鋒
その、鋭い弁舌と、一切の妥協を許さない姿勢から
「氷の女帝」の異名を持つ
彼女の政策は、常にシンプルだ
「強い日本を取り戻す」
その言葉は
今の、弱り切った日本に不安を抱く
多くの、高齢者や、保守層から
絶大な支持を得ていた
二人目は
大野 勇次郎(おおの ゆうじろう)
元総理大臣を父に持つ、政界のサラブレッド
その、圧倒的なカリスマ性と
クリーンなイメージ
そして、環境政策を武器にする、若きリーダー
彼は、党の、そして日本の「新しい顔」として
特に、女性や、若い世代から
アイドル的な人気を誇っていた
だが、その笑顔の裏に
父譲りの、冷徹な野心を隠していることを
知る者は、まだ少ない
そして、三人目
速水 創(はやみ はじめ)
党の古い体質に
真っ向から、喧嘩を売る、異端の改革派
彼は、SNSを駆使し
国民に、直接、語りかける
「既得権益を、ぶっ壊す!」
その、あまりに過激で、しかし、分かりやすい言葉は
政治に絶望していた、無党派層の心を
熱狂的に、掴んでいた
保守の「女帝」
改革の「若き獅子」
そして、破壊の「革命家」
民政党の、そして、日本の未来を賭けた
血で血を洗う、総裁選が
今、始まろうとしていた。
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