不幸を呼ぶ男 Case.3
【民政党・総裁選】
総裁選には
他にも二人の候補者がいた
だが
世論の見方は、ほぼ固まっていた
次期総理大臣は
保守派の支持を固める、黒川か
無党派層と若者の心を掴む、大野か
その、どちらかだろうと
改革派の速水は
その次に、つけるかどうか
大方の、見方だった
そんな中
日本で最も過激な、ネット討論番組
**「THE PRIME」**が
三人を、スタジオに招いた
火花散る、討論が始まった
最初に、口火を切ったのは
やはり、速水だった
速水:「そもそも、今回の選挙の大敗は!」
速水:「あなたたちのような、古い政治家が、国民の声を無視し続けてきた結果じゃないですか!」
速水は
黒川と大野を、交互に指差し
過激な言葉で、糾弾する
それに対し
黒川は、表情一つ変えない
黒川:「感情論で、国は動かせません」
黒川:「必要なのは、強いリーダーシップと、防衛費の増額。そして、ぶれない覚悟です」
一方
大野は、その場の空気を支配するように
穏やかに、しかし、力強く語り始めた
大野:「お二人の言うことも、分かります」
大野:「ですが、私が見ているのは、もっと未来です」
大野:「子供たちが、安心して暮らせる、環境と、経済。それこそが、新しい日本の形だと、私は信じている」
保守の「女帝」
改革の「若き獅子」
そして、破壊の「革命家」
三者三様の「正義」が
画面を通して、激しく、ぶつかり合った
【番組収録後・大野勇次郎の控室】
討論を終え
大野は、一人、控室でネクタイを緩めていた
コンコン
ドアが、控えめにノックされた
入ってきたのは
黒川皐月だった
その手には、お茶の入った、二つの紙コップ
彼女は
大野の隣に立つ、秘書の顔を
一瞥した
大野は、全てを察した
大野:「……席を、外してくれ」
秘書は、深々と頭を下げ
静かに、控室から出て行った
部屋には、大野と黒川
次期総理の座を争う、二人の候補者だけが残された
ドアが、静かに閉まる
その、重い音が
これから始まる、密会の
不穏な空気を、予感させていた
部屋には二人きり
次期総理の座を争う、二人の候補者だけが残された
ドアが、静かに閉まる
その、重い音が
これから始まる、密会の
不穏な空気を、予感させていた
黒川:「お疲れ様、大野さん」
大野:「お疲れ様です、黒川先生」
大野:「……それで?何か、お話でも?」
黒川の目が
すっと、細められた
まるで、獲物に狙いを定める、蛇のように
黒川:「元総理……大野勇様を、殺した人間のこと」
黒川:「私、知っているのよ」
その、あまりに唐突な言葉に
大野の、完璧な笑顔が
ほんの、わずかだけ、凍り付いた
だが、彼は、すぐにいつもの、涼しい顔に戻る
大野:「……何を、おっしゃっているんですか?」
黒川は、構わず続ける
彼女は、確信を持って、鎌をかけた
黒川:「あなたが『ファントム』という名の、殺し屋を使って」
黒川:「……実の、お父上を」
大野:「……ははっ」
大野は、声を上げて笑った
心底、馬鹿馬鹿しいとでも、言うように
大野:「どこに、そんな証拠があるんですか?」
大野:「黒川先生も、お疲れのようだ」
そして
今度は、大野が、反撃に転じた
大野:「そういえば、先生」
大野:「あなたの、元旦那さんのことですが」
大野:「……政治資金を、ずいぶんと、使い込んでいたと、聞いています」
大野:「確か、愛人のマンションの家賃も、そこから出ていたとか」
その、鋭い反撃に
今度は、黒川の表情が、わずかに、こわばった
二人の間に
張り詰めた、沈黙が落ちる
互いに、相手の喉元に
見えないナイフを、突きつけ合っている
そんな、息も詰まるような、時間
やがて
黒川が、ふっと、笑みを浮かべた
黒川:「……どうやら、私たち」
黒川:「良い『お友達』に、なれそうね」
それは
血で血を洗う、暗闘の始まりを告げる
冷たい、冷たい
握手だった