不幸を呼ぶ男 Case.3
第十一章:エピローグ
第十一章:エピローグ



【都内・救命救急病院】

大野勇次郎は
奇跡的な回復を、見せていた
彼は、ただ、ぼんやりと
病室の、白い天井を、見つめていた
色々なことが、ありすぎた
コンコン
控えめな、ノックの音
勇次郎は、どうぞ、と静かに言った
ドアが開き
黒川皐月が、入ってきた
大野:「……黒川さん…」
黒川:「意識が、戻ったと聞いたから」
大野:「お陰様で」
大野:「死に損ないましたよ」
彼は、力なく、笑った
黒川:「……笑い事じゃ、なかったのよ」
黒川も、つられて、少しだけ笑う
黒川:「あなたという、ライバルがいないと、張り合いがないわ」
大野:「ははっ。次の総理大臣は、俺がなりますからね」
黒川:「当分、先になるわね。私のやりたい事は、山積みだから」
そして
黒川は、急に、真顔に戻ると
ベッドの横に立ち
深々と、深く、頭を下げた
黒川:「……それより」
黒川:「ありがとう、大野君…」
大野:「……俺の方こそ」
大野:「名医を、呼んでくださったみたいで。ありがとうございました」
その時
大野は、気づいた
黒川の、美しい頬や、腕に
いくつもの、青あざや、擦り傷があることに
大野:「……あの後も、色々、あったみたいですね…」
黒川は
その、傷に、そっと触れた
黒川:「ええ。色々あって、色々、勉強になったわ」
黒川:「……色々な、『正義』があるものね」
大野は
黒川の顔を、じっと見た
黒川:「人を、傷つけることは、決して、許されることではない」
黒川:「……でも」
黒川:「それが、誰かにとっての『正義』になる場合も、あるのだと」
大野:「……確かに」
二人の間に
政治家としてではない
ただ、一人の人間としての
静かな、理解が、生まれた
黒川は
踵を返し、ドアへと向かう
黒川:「それじゃあ、そろそろ、行くわ」
大野:「はい。わざわざ、ありがとうございました」
黒川:「……今日は、公約発表の、記者会見なのよ」
彼女は、ドアの前で、振り返ると
最高の、不敵な笑みを、浮かべた
黒川:「あなたの、早い復帰を、待っています」
彼女は、そう言うと
一度だけ、お辞儀をし
病室を、後にした。
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