不幸を呼ぶ男 Case.3
【深夜・河川敷】
風間のクナイが
嵐のように、滝沢に襲いかかる
だが
その、死の刃は
一枚も、滝沢の体を捉えることはなかった
まるで、蜃気楼を斬りつけているかのように
やがて
滝沢が、すっと、距離を取った
そして
上着の中から、あの、銀色の獣を、取り出す
S&W M500
風間のお腹に
その、巨大な銃口が向けられる
ドゴォォォォォンッ!
凄まじい轟音
風間の体は
砲弾にでも撃ち抜かれたかのように
派手に、吹っ飛んだ
滝沢:「……計算違いだったな」
滝沢:「コイツは、普通の銃じゃねぇ」
風間は、口から血を吐きながら
地面に、横たわっていた
鎖かたびらは、銃弾を止めた
だが、その、あまりに強大な衝撃が
彼の、内臓を、破壊していた
風間:(……クナイも、どこかに飛んで行ったか)
風間:(……ここまで、か)
彼が、静かに、死を覚悟した
その時だった
「待って!」
フラフラと、よろめきながら
黒川が、璃夏に支えられ、歩いてくる
黒川:「……少し、その人と、お話しさせて、もらえないかしら」
璃夏:「……危険です!」
だが、滝沢は、静かに頷いた
彼は、風間から、ゆっくりと離れる
黒川は
横たわる風間の、その横に
静かに、座り込んだ
黒川:「……あなたの、先ほどの、お話…」
黒川:「……息子さんの、こと…」
風間は、荒い息を繰り返すだけだった
黒川:「……もし、私が、総理大臣になったら」
黒川:「あなたの息子さんのような、子供たちのために」
黒川:「高額な移植手術の費用は、全て、政府が出すようにします」
風間は、驚いて、黒川の顔を見た
黒川:「……あなたも、国民の一人」
黒川:「そういう、声なき声に、耳を傾けるのが、私の仕事です」
黒川:「私の公約に、必ず、入れます。そして、必ず、実現させます」
黒川:「……だから」
黒川:「あなたは、自分の罪を、償いなさい」
黒川:「そして、償いが終わったら、その時の日本を、もう一度、見て」
黒川:「……私の元を、訪ねてきなさい」
黒川:「その時は、一緒に、この国を、変えるために、手伝ってちょうだい」
彼女は
心の底から、優しく、微笑んだ
その、あまりに、温かい光に
風間の、凍てついていた心が
ゆっくりと、溶けていく
彼の、瞳から
この世に生まれて初めての
大粒の、涙が、溢れていた
そして
風間は、ただ、一言
子供のように、泣きじゃくりながら
「はい……」とだけ、言った
黒川は、滝沢と璃夏の方に向き直る
黒川:「……今から、警察を呼びます」
黒川:「あなたたちは、早く、行きなさい」
黒川:「……色々、具合が、悪いでしょ?」
彼女は、悪戯っぽく、笑った
黒川:「……そして」
黒川:「ありがとう。この恩は、一生、忘れません」
滝沢:「……ああ」
璃夏:「……お二人とも、お大事に」
滝沢と璃夏は
その光景に、背を向けた
そして
夜明け前の、闇の中へと
静かに、歩き出した
彼らが、帰るべき場所へ
その、奇妙で、騒がしくて、そして、かけがえのない
愛すべき、日常へと