捨てられ仮面令嬢の純真
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 王都とはいえ下町になれば、町並みはごちゃごちゃしたものだ。
 細い路地がいり組んだ奥ならどこにでも、雑な食事と酒を出す場所がある。その日の仕事にありつけなかった連中がクダを巻きながら暖をとるのが日常の店だ。村で食えなくなり流れてきた者や異国から逃げてきた者も多い。
 そんな界隈で最近、物騒な話を持ちかける男がいると噂があった。

「俺はビルウェンの商人にだまされて財産を巻き上げられた」

 そう不満をぶちまけては、その商人の倉庫を潰さないかと仲間に誘うのだ。

「あいつに復讐したいんだ。倉庫には食料もたんまりあるぞ。こんど王宮で開かれるパーティーにも、その商人がいろんな物を売り渡すはずだ」

 そんなことを言ってチビチビ酒を飲む男は不思議なことに、会った人間によって風貌がいろいろに言われていた。
 痩せた小男。いや、背は高かった。太っちょだ。黒髪だった。ハゲていた。
 これはギードが送り込んだ男が三人いたせいなのだ。首謀者を絞り込ませないためのズルいやり方。

 だが誘われた人間は、そんなことどうでもいい。とにかく金が手に入る話があるなら乗るしかないのだ。盗みでもしないことには飢えるしかない。
 それにここはマルロワだ。よそ者のくせに儲けているビルウェン商人がいるのなら、ちょっとぐらい富を分けてもらってもいいだろう。

 そう言い訳をして話に乗った連中が、川岸に集まってきていた。



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