捨てられ仮面令嬢の純真

 王の執務室を逃げ出したフェルナンは、並んで歩くマティアスにしみじみと述懐した。

「貴殿のご苦労は並大抵のものではないな」
「――いたみいります」

 マティアスもさすがに疲れ果てた顔をする。演技ではあるが、わりと本心だ。

 暴言を投げつけられ、マティアスはさっさと「では行って参ります」とあの場を辞してきた。少々不敬な行動ではあるが、フェルナンという証人がいるから大丈夫。非はリュシアンにある。国民へ王国軍を差し向けろとまで言われては、穏健派でチャーミングな騎士団長もリュシアンを見限ったに違いない。

「ですが仕方ない。陛下になんとかしろと命じられたわけですし、参りましょうかフェルナン殿」
「……現場に行かれるのか」
「力ずくでどうの、はやりませんよ。民を殺すなどあり得ない」

 マティアスの目が憂いを帯びた。リュシアンがあそこまで馬鹿だとは。

「被害を受けているのは商人ですが……商組合に協力を求めましょう」

 集まっている人々にほどこしをし、帰らせる。その物品の供出を付近の倉庫所有者に要請するのだ。不満は出るだろうが、これ以上暴力にさらされるよりマシなはず。

「説得に応じてもらえるかどうか。困窮する民へ無策だったのは私もなので、肩身が狭いですね」
「いや補佐官殿は努力していただろう。宰相殿も。皆が知っているはず」
「おっと、父にも相談してから行かねば」

 苦笑いするマティアスは、どこから見ても貧乏くじを引かされている苦労人。謀略をたくらんだ側とは思えなかった。

「そうだ団長殿、レオはそろそろ帰着する頃でしょうか」
「……おお、明日にも戻るのではないかな」
「うーん……留守に騒ぎを起こしたのは失策だった。あいつに心配かけたくないんだがなぁ」

 兄の面目を気にしてみせる。だがマティアスは考えていた。

(ちょうどいいぞ……レオが現場に駆けつければ、民心はこちらのもの)

 腹黒な宰相補佐官は、着々とリュシアンを孤立させていくのだった。


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