捨てられ仮面令嬢の純真

 新しい国王夫妻の助けとなってくれているのは、宰相補佐官マティアス。今も三人で仕事中だ。弟に王位を押しつけてご満悦のマティアスに、レオは恨みがましい目を向けた。

「俺は気楽に騎士をやっていくつもりだったのに」
「あきらめろよ。私はな、王者を影であやつる方が性に合うんだ」

 策士なことを言い放ちマティアスは悪びれなかった。苦笑いしてしまうセレスの隣でレオはため息がとまらない。

「あやつってないで表に出てくれ。兄のくせに継承権順位をすっ飛ばすなんて、どうかと思うんだが」

 ブツブツ文句を言われてマティアスはしばし沈思した。

「――そうだな、ひとつ願いを叶えてくれたら考えてもいいが」
「なんだ?」

 王座を背負ってもいいほどの切実な願いなど、マティアスにあるのか。
 レオは真剣に耳をかたむけた。話が気になって目を上げたセレスのことをチラリとして、マティアスは寂しげに微笑んでみせる。

「レオ――これから私のことを、また『にいたま』と呼んでくれないか? あれが可愛くて好きだったんだよ」

 ガタンッ!
 思わず執務椅子を蹴り飛ばして立ったレオは、真っ赤になって恥ずかしさにふるえている。セレスは声をあげて笑ってしまったが、夫の手を引き必死でなだめた。
 ――即位前に王と補佐官が暴力沙汰なんて、あってはならないのだ。たとえ仲良しな兄弟喧嘩だとしても。



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