捨てられ仮面令嬢の純真
幼かったあの日、落ちてくる枝の前へ飛び出したのは「王太子」を守るためだった。この国を継ぎ導くことになる人に、力の及ぶ限り仕えなさいと教えられ盲目に従っただけ。
だがその純真は今これから、レオに向けられる。愛した人へ。
愛するレオが愛する国の頂点に立つなんて――セレスはとても運がいいのだ。
「そう――だな。セレスが俺を全身全霊で愛してくれているのだと受けとめよう」
「もちろんです。私はあなたのものなの」
そしてレオも、セレスのもの。それは言わなくてもわかっている。
いつの間にそんなふうになったのだろうか。セレスは感慨深く結婚式を思い出した。
「傷もの」のセレスを押しつけられたレオに対して申し訳なく思っていたこと。
口づけの許可を求められ優しさに驚いたこと。
まだレオを愛せるか自信がなくて、おびえていたこと。
今から考えると、花嫁の控室をのぞいたレオはかなり浮かれていたのだろう。ずっと恋していたセレスと結婚することになって。
今日あの同じ控室でともに戴冠を待つなんて夢のようだ。
「――レオさま」
そっと隣に立ち、セレスは夫を見つめた。なんて愛おしい人。
「ああ」
何も言わなくていい。ただまなざしを交わすだけで通じる想いがあるから。
レオはセレスに左手を差し出す。セレスは右手を預ける。
――コンコン。
扉が軽く叩かれた。
「――行こうか」
「はい」
二人はすべるように歩き出す。
静かな熱気に満ちる聖堂へ。清浄な光が降りそそぐ祭壇の前へ。
レオが王となり、セレスは王妃になる。
そして生きるのだ。誇り高く。
――この愛に誓って。
了


