捨てられ仮面令嬢の純真

 マティアスはリュシアンの従兄にあたる。ラヴォー公爵家を継ぐ身でもあり、父の補佐官として政務を学んでいた。
 そんなマティアスを頼りにして、リュシアンは何かと相談相手に指名する。自分が王たる時に右腕となる男だと思っているのだ。

「まあ、仕方ありませんね」

 マティアスは王太子相手でもやや軽いしゃべり方だった。年齢の近い親族で兄がわり――そんな位置をキープしている。だが実はこのマティアス、王位継承権がリュシアンに次いで第二位なのだ。それを他人に意識させないよう、副官的な立ち回りをいつも心掛けていた。

「王族貴族の婚姻なんて普通は政略ですから。殿下だって、見初めたお相手がもっと低い身分なら妃にしないのでは?」
「ふうむ、そうだな……」

 二十八歳のマティアスは自身も権門から妻を迎えている。しかしその相手とは結婚後に愛をはぐくみ、うまくやっていた。七つも年下のリュシアンが恋に浮かされるのを生あたたかく見ているのだが、それは表に出さない。

「とはいえ貴族たちに批判的なことを言わせておくわけにもいきませんよ」
「そうなんだ。即位前にこれでは困る」

 もっともらしくうなずかれ、マティアスは心のなかでため息をついた。賛同されるわけもないことをやるなら根回しぐらいしておいてほしい。

「批判が噴出するのは、まあつまりセレスティーヌ嬢の立場があまりに不憫だから、というのがありますね」
「そうか?」

 そうだ。
 これまで数年にわたりセレスが築いてきた王太子婚約者としての実績に不足はなく、いきなり放り出されるような咎もない。
 なのにこうなった――ということで、相対的にリュシアンとミレイユの評判は下がっているのだった。どうやらリュシアンはそんなことも認識できていないようでマティアスは頭が痛い。

「だからセレスティーヌ嬢をさっさと縁づけてしまいましょう。彼女が幸せになれば批判は薄れるはずです」
「ほう、なるほど。だが誰と結婚させるんだ」
「――うちの弟、レオが適任だと思います」

 マティアスは悪い顔で上品に笑った。


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