捨てられ仮面令嬢の純真
ダニエルが依頼したのは、レオの財産が正しく運用されているかのチェックだった。信頼されているダニエルだが、ひとりで処理を続ければ不正を行うこともできる。なので「奥さまが目を通して下さい」というのだ。
逆にセレスの領地の運営にダニエルも力を貸す。どうせ隣接しているのだし、問題が起これば共通した対応が必要になるだろう。協力態勢を築きましょう、というわけだ。
「セレスティーヌは領地の経営もできるのか」
「できる、というほどではありません。少し学んだだけで。いちおう私が領主であるならば、領民を飢えさせるわけにいきませんから」
言ってからセレスは少し後悔した。こんな可愛げのないことを口に出さず、何もわからないふりをすればよかっただろうか。
だがレオは感嘆の声をあげた。
「さすがだな」
「え――いえ、そんな」
「いや。民が幸せでなければ、土地だけあろうと何もならない」
スクっと立ったレオはごく自然にセレスへ手を差し伸べた。一瞬目をみはったセレスだが、そっとつかまり立ち上がる。レオは両手でセレスの手をやわらかく包んだ。
「俺が学んだのは軍事ばかりで、経営にはうとい。なのにどういうわけか領地と爵位を持つ身になってしまった。セレスティーヌが助けてくれると嬉しいのだが」
「――私などでよろしければ」
「頼りにしている」
明るく笑んだレオにつられ、セレスも微笑みを返した。
(私――ここにいてもいいんだわ)
セレスはやっと安堵したが――すると握られたままの手が気になってきた。どうしてレオは離してくれないのだろう。
セレスがもじもじと手を引きかけたのがわかって、レオはあえて手に力をこめた。片手をつないだまま歩き出す。
並んで館に戻りながら、セレスはなんだか心臓がうるさくなり困ってしまった。しかしレオの方は、なんとか成しとげた「手を握る」ミッションに小躍りしそうだったのだ。