捨てられ仮面令嬢の純真


 帰宅したレオは、迎えに出たのがダニエルだけで拍子抜けした。今までセレスも毎日玄関ホールへやって来ては微笑んでくれていたのだが。

「奥さまは、お庭を散策なさっています」

 教えたダニエルから目配せが飛ぶ。チャンスだ。レオはうなずいた。

「今日は帰りが早かったからな。俺も庭を見てみよう」
「行ってらっしゃいませ」

 セレスのいる庭というのはプライベートな造りになっていて、玄関前とはつながっていない。館のホールから裏へ抜けたところだ。
 小じんまりした庭へ歩み出たレオは、ベンチにいるセレスをすぐに見つけた。何やら深刻な表情だった。

(セレスティーヌ……悩み事か? それはもしや、俺との結婚についてでは)

 そのとおりだ。
 だがレオが想像し戦慄したような、結婚を後悔するものではない。どうしたらレオに歩み寄れるかわからず、困っているのだった。

「――レオさま!」

 人影が動いたのにハッとしたセレスは顔を上げ、夫の帰宅に気がついた。でも立ち上がるより早くレオがベンチに近づく。

「少し早く帰れた」
「お出迎えせず申し訳ありません」
「そんなのはいい」

 レオはさりげなく隣に座ってみた。だがセレスがそっと腰を離す仕草に軽く傷つく。
 セレスにしてみれば、自分より大きなレオがゆったりできるよう気を配っただけなのだが。気持ちがすれ違っている時は何をしても裏目に出るものだ。それでもレオはめげずに話題を探した。

「……今日は、何をしていたんだ? 館にはもう慣れただろうか」
「あの……ダニエルに領地のことを相談していました」
「領地?」

 いぶかしげにされ、セレスはおどおどうなずいた。
 それはセレスが個人的に所有する土地のこと。頬の傷の慰謝料として譲り受けたものだ。説明されてレオも思い出す。兄のマティアスがそう教えてくれていた。
 その所領、これまでは父侯爵の管財人を通して管理していた。だが結婚した今となっては夫のレオに協力をあおぐべきではと侯爵家から言われてしまったのだ。

「それでレオさまの所領はどうなさっているのか、と尋ねたんです」
「ダニエルは家令も兼ねるからな。任せてしまっているが……」
「そう聞きました。あの……ダニエルは、私にも当家の帳簿を見てほしいと」
「うん?」

 首をかしげるレオに、セレスはもじもじする。差し出がましいことだと思ったのだ。


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