捨てられ仮面令嬢の純真
✻ ✻ ✻
式典はつつがなく行われる。
レオはそう言い切ったが、男には関与できないところで問題がひとつ持ち上がった。服飾店から連絡があったのだ。
「――ドレスが間に合わない?」
家政婦長アネットは耳を疑った。
早まった戴冠式と結婚式。参列する貴顕の面々は、こぞって衣装を新調する。突然の注文激増に沸いた服飾界隈だったが――お針子の不足でさばき切れなくなったらしい。王都のどこの店でも同じ状況で、お針子の抱え込み合戦が生じているのだった。
「優先で仕上げてほしければ割増料金を払えということですか?」
話を聞いて、侍女のコラリーが不満げな声をあげた。商人の娘だけあって損得勘定にはうるさい。
逆にセレスは、金にややうとかった。大貴族から王室へ嫁ぐ予定だったので市井の相場を知らず、首をかしげてしまう。セレスは実際に街を歩いたこともほとんどないのだ。
唇をとがらせるコラリーは仕立て屋のやりように不満を隠さない。
「……足もと見るのは正しいんですけど、自分がやられると腹が立ちますねえ。ええとアネットさん、奥さまの物だけですか? 旦那さまのお衣装は騎士団の礼服でいいんでしょうか」
「そうなるわね。だから奥さまの即位式礼装と、結婚式参列の控えめなドレス、それと舞踏会の華やかなドレスの三着がまずいのよ」
セレスは今回、めったな格好で人前に出るわけにはいかない。リュシアンに捨てられた元婚約者で、妹に男を奪われた哀れな女――そう思われるのは夫であるレオの沽券にも関わるのだった。
式典はつつがなく行われる。
レオはそう言い切ったが、男には関与できないところで問題がひとつ持ち上がった。服飾店から連絡があったのだ。
「――ドレスが間に合わない?」
家政婦長アネットは耳を疑った。
早まった戴冠式と結婚式。参列する貴顕の面々は、こぞって衣装を新調する。突然の注文激増に沸いた服飾界隈だったが――お針子の不足でさばき切れなくなったらしい。王都のどこの店でも同じ状況で、お針子の抱え込み合戦が生じているのだった。
「優先で仕上げてほしければ割増料金を払えということですか?」
話を聞いて、侍女のコラリーが不満げな声をあげた。商人の娘だけあって損得勘定にはうるさい。
逆にセレスは、金にややうとかった。大貴族から王室へ嫁ぐ予定だったので市井の相場を知らず、首をかしげてしまう。セレスは実際に街を歩いたこともほとんどないのだ。
唇をとがらせるコラリーは仕立て屋のやりように不満を隠さない。
「……足もと見るのは正しいんですけど、自分がやられると腹が立ちますねえ。ええとアネットさん、奥さまの物だけですか? 旦那さまのお衣装は騎士団の礼服でいいんでしょうか」
「そうなるわね。だから奥さまの即位式礼装と、結婚式参列の控えめなドレス、それと舞踏会の華やかなドレスの三着がまずいのよ」
セレスは今回、めったな格好で人前に出るわけにはいかない。リュシアンに捨てられた元婚約者で、妹に男を奪われた哀れな女――そう思われるのは夫であるレオの沽券にも関わるのだった。