捨てられ仮面令嬢の純真
聖堂は詰め込まれた人でいっぱいだった。
戴冠式には聖職者と高位貴族を中心に商人や職人組合の代表者も立ち会う。大司教の前に重々しく進み出るリュシアンは毛皮で縁取られた白いマントを羽織り、それなりに見えた。
だが、人々の目は厳しい。今年の財政支出が多かった影響で、来年以降に税率が上がるのではと噂が立っているのだ。こうして正式に王となったリュシアンがいかに国を率いるのか、誰もが不安を抱いていた。
いちど王宮に戻ったリュシアンは、テラスに出て民衆へ即位を宣言する。控えめな歓呼の声が響く隙に、女性たちは着替えだ。
王宮の控えの間がいくつも解放され、各家の侍女たちが衣装を持ち込んでいる。セレスはそこでコラリーと合流した。見事にドレスを仕立て直したコラリーはそわそわと嬉しそうだ。
「ああ……腰にいいラインが出せて本望です」
「本当にこういうのが流行なの?」
着せられたセレスはちょっと恥ずかしい。元はふんわり広がるフレアだったスカート部分が、お尻の形に沿うような形に変えられていた。太ももの途中からヒラヒラとドレープが重ねられているので歩くのに支障はないのだが。
「流行ってますよー。今回新しくドレスを仕立てた上流の奥さま方をチェックしてみて下さいね。これになってるかどうかで、割増料金を払えたっていうのがわかりますから」
ドヤ顔のコラリーにセレスは笑いをこらえる。声をあげて笑うなんてはしたないことだ。王宮では誰に聞かれるかわからないから。
そういえば今の館では、笑いたければ気にせず笑えていた。そんなことにもセレスは幸せを感じる。思わず微笑んだセレスにコラリーは真顔で訴えた。
「私は本職のお針子には敵いませんけども、せいいっぱい縫わせていただきました。奥さまの美しさで、ぜひ旦那さまを照れさせてください」
「ちょっとコラリー」
そんな言い方をされてはセレスも慌ててしまう。腰に手を回したこともない、清純な夫婦なのだから。
(そりゃあ……レオさまにちゃんと、女性として見てもらえたらとは思うけど)
トクン。そう考えただけでセレスの鼓動は速くなった。