捨てられ仮面令嬢の純真


 着替えたセレスを迎えて、レオはきちんと照れた。だって妻が貞淑な気品にあふれていたのだ。
 胴から腰へのくびれは見えているが、下品ではない。袖にあしらわれたドレープである程度隠されていて、女らしさだけが伝わった。深い紅のドレスに包まれて肌はほとんど見えず、聖堂に列席するにふさわしい慎ましさもあった。
 そして同じ色のトーク帽と、目の下までのチュール。その影が右頬の仮面を美しく際立たせていた。

「……コラリーのセンスは素晴らしいな」

 レオがそんな賛辞をもらしたのは、妻に魅了された照れ隠しだった。だがセレスは大まじめにうなずく。仲良しの侍女がほめられてとても嬉しかった。

「そうですね。今日の殊勲者はコラリーではないかと」
「違いない」

 うなずき合う二人はどこから見ても円満な夫婦。
 これから式を挙げる国王夫妻に負けず劣らず、幸せそうだった。



 そしてふたたび聖堂に集い、こんどは婚礼だ。セレスとレオの時とは違い、あふれんばかりの人が詰めかけている。むせかえるような花の香にクラとしながらセレスは長椅子に腰をおろした。

(あの時に考えた幻そのままね。でも私は静かなお式にできてよかった。こんなのは苦しいだけだわ)

 セレスが望むのは、ただ愛おしい人との静謐な誓いだけ。
 実際の結婚式の頃にはまだ、レオへの気持ちがあやふやだったのが心残りではあるが――。

(今なら心から誓える。私はレオさまのこと……)

 隣に座るレオとふれそうな右肩が熱かった。夫にときめくだなんておかしいだろうか。
 でもセレスは今、恋をしている。レオに。
 だから祭壇の前で勝ち誇ったようなリュシアンの顔も、国王のもとへ静々と歩みつつ姉をチラリと見下したミレイユの視線も、何も目に入らなかった。

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