捨てられ仮面令嬢の純真


 翌朝、目を開けたセレスはすぐ隣で微笑むレオをぼんやり見つめた。ここはセレスの部屋だ。なのにレオが一緒にいる。

「おはようセレスティーヌ」

 愛おしげにささやくレオの声が甘かった。
 いや、昨夜は――セレスも甘く乱れてしまった。そっとレオの指先でふれられると、頭がしびれていく。押し寄せる波のような高ぶりにレオへすがりついたのを思い出した。
 恥ずかしくてセレスは掛布に頭までもぐり込んだ。レオは肩をふるわせ笑う。

「眠れたか? 疲れさせたな」

 がっしりした胸の筋肉もあらわに腕を伸ばす。髪をなでられセレスはそっと顔を出した。

「レオさま……」
「さすがに起きないと。陽が高い」

 体を起こしたレオの背中がたくましくて恥ずかしくて、セレスは視線をそらす。気づいたレオは容赦なかった。セレスの顔の脇に手をついておおいかぶさる。掛けた言葉は少しだけ意地悪だ。

「……痛かったか」

 笑みを含んだ言い方だった。とうとうセレスと結ばれて、これでも有頂天なのだ。
 喜びを隠さないレオに、セレスだって文句を言えない。だって初めての痛みは仕方ないことだから。小さくうなずくとレオの唇が降ってきた。

「すまない。俺は、よかった」
「……もう! やめてくださいな」

 セレスはふくれて怒ってみせる。レオになら、安心してそんなことができた。愛する夫だから。
 レオは横たわるセレスのかたわらに座ったまま、そっと頬にふれてきた。指先がなぞったのは、セレスの仮面だ。
 
「――俺には、素顔を見せてもいいと思わないか」
「え……」
「セレスティーヌは綺麗だ。傷跡など、俺は受けとめる」

 昨夜、唇をむさぼるようにしながらレオは仮面には手をかけなかった。セレスの大事な部分に踏み込むのは、夫婦といえどしてはならないことだと思った。
 だが体のすべてを許しあった二人だから、心も許してほしい。セレスが背負ってきた傷とわだかまりをレオも分かち合いたいのだ。
 レオは静かに腕を引く。戸惑うセレスに無理を強いる気はなかった。

「――もし出来るならな。セレスティーヌには、俺の隣でセレスティーヌらしくしていてほしい」

 スルリと寝台からおりたレオは、脱いだ服を拾って自室へ戻っていった。

(――私の傷跡を? レオさまに?)

 残されたセレスは仮面の下に指をはわせる。わずかなふくらみ。
 この跡を見ても――きっとレオならさげすんだりしないと思う。そういう人だ。だからこそ愛した。「セレスティーヌらしく」という言葉に嘘はないのだろう。
 だけどやはり、ためらわれた。これはリュシアンを――夫以外の男をかばった傷跡なのだ。そのことが今さらレオに申し訳なくなった。


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