捨てられ仮面令嬢の純真
✻ ✻ ✻
宰相執務室に呼ばれているのはビルウェン王国の商人、ギードだった。部屋の主ラヴォー公爵は王のもとに伺候していて、今いるのはマティアスだけ。
ハーラルト卿はすでに帰国している。しかし彼ら使節が持ちかけた、「マルロワ王国の頂点をすげ替えるなら協力する」という内密の話は今も有効だ。表向き貿易の交渉をよそおって訪れたギードだが、おもに話したいのはそちらの案件なのだった。
しかしマティアスとしてはその件を宰相に聞かせる気はない。父ラヴォー公爵は清廉潔白な人物で、だからこそ先王の姉を妻にできたのだ。王位簒奪の話などには乗ってこないと思われた。
「……補佐官殿は、おひとりで抱え込むつもりだと?」
「まあな。のっぴきならないところまで進めば父も巻きこめるが。身内を危険にさらすわけにはいかない」
「よいお覚悟ですなあ」
マティアスのくだけた口調がギードを共犯と認めている。これは話のしやすい相手だとギードはほくそ笑んだ。
頭が回り地位のある男というのは、軽く匂わせただけで察して動いてくれる。利を見るに敏い商人として、鈍重な馬鹿は嫌いだ。
「至高のお方はますます評判を落としてますようで」
「うむ。何もしなくても転落の一途をたどってしまう。困ったものだ」
それはリュシアンのこと。王妃ミレイユをのさばらせておくのも悪評につながっているが、それだけではない。先日も食料不足の問題を議論する臣下たちが「農産物の輸入を検討すべきだが国庫がこころもとない」と苦言を呈したのに対し、「では貴族からも税を取ればよい」とのたまった。
財務を担当する者たちが言いたかったのは、派手な式典を強行した国王夫妻の浪費癖への糾弾だった。それが通じないばかりか貴族に負担をかぶせてこようとは。決定は見送られた税だが、噂だけで宮廷は揺れ動いている。
「みずから味方を減らしていかれるとは、私どもの出る幕が減りますなぁ」
「そもそもどう出るつもりだった?」
マティアスは冷たい視線でギードを射ぬいた。
宰相執務室に呼ばれているのはビルウェン王国の商人、ギードだった。部屋の主ラヴォー公爵は王のもとに伺候していて、今いるのはマティアスだけ。
ハーラルト卿はすでに帰国している。しかし彼ら使節が持ちかけた、「マルロワ王国の頂点をすげ替えるなら協力する」という内密の話は今も有効だ。表向き貿易の交渉をよそおって訪れたギードだが、おもに話したいのはそちらの案件なのだった。
しかしマティアスとしてはその件を宰相に聞かせる気はない。父ラヴォー公爵は清廉潔白な人物で、だからこそ先王の姉を妻にできたのだ。王位簒奪の話などには乗ってこないと思われた。
「……補佐官殿は、おひとりで抱え込むつもりだと?」
「まあな。のっぴきならないところまで進めば父も巻きこめるが。身内を危険にさらすわけにはいかない」
「よいお覚悟ですなあ」
マティアスのくだけた口調がギードを共犯と認めている。これは話のしやすい相手だとギードはほくそ笑んだ。
頭が回り地位のある男というのは、軽く匂わせただけで察して動いてくれる。利を見るに敏い商人として、鈍重な馬鹿は嫌いだ。
「至高のお方はますます評判を落としてますようで」
「うむ。何もしなくても転落の一途をたどってしまう。困ったものだ」
それはリュシアンのこと。王妃ミレイユをのさばらせておくのも悪評につながっているが、それだけではない。先日も食料不足の問題を議論する臣下たちが「農産物の輸入を検討すべきだが国庫がこころもとない」と苦言を呈したのに対し、「では貴族からも税を取ればよい」とのたまった。
財務を担当する者たちが言いたかったのは、派手な式典を強行した国王夫妻の浪費癖への糾弾だった。それが通じないばかりか貴族に負担をかぶせてこようとは。決定は見送られた税だが、噂だけで宮廷は揺れ動いている。
「みずから味方を減らしていかれるとは、私どもの出る幕が減りますなぁ」
「そもそもどう出るつもりだった?」
マティアスは冷たい視線でギードを射ぬいた。