捨てられ仮面令嬢の純真
マティアスだって異国人にマルロワ国内で好き勝手させる気はない。
「いえいえ。ほんの少しヒントを与えるだけの予定でして」
ギードの態度はうやうやしいが、言葉の内容は不遜だった。
「貴族にも庶民にも、不満を持たれるような噂を広めまして。できれば王都から兵の主力が離れているようなタイミングで小さな火種を撒こうかと。暴動につながるようなやつです」
「暴動はよくない。民に被害が出るような騒ぎは許容できんぞ」
「足もとで起こる騒ぎにも対処できない無能っぷりをさらけ出してもらいませんとねえ。そこであなたさまが辣腕をふるい、事をおさめる。それで人望が集約できますし」
「ふむ……」
「庶民ってのは『あいつらが儲けているせいで自分が貧しい』という話に踊らされるんで。マルロワの貴族や商人に被害が出るのがまずければ、矛先はビルウェンの大商人なんかはどうです?」
にこやかに同国人を売るギードにマティアスは片眉を上げた。たしかにビルウェン商人の大倉庫が王都にあるが。
「……それは、おまえの商売敵なのか」
「まあ、そんなところで」
ふふん、とギードは食えない笑みだ。この暗躍でギードにだって利があるのは当然のこと。でなきゃ危ない橋は渡らないのだ。
そらにそんな裏がなければ相手も陰謀に乗ってはくれない。正義なんてものは人によって変わるが、金の価値はほとんどの人間が認めるものだから。
「ただし、最初の襲撃からすぐに事態を鎮圧して下さいよ。他国の商人にまで被害を広げては賠償問題ですからな」
「――ビルウェンは何を求めるつもりだ」
マティアスの舌は鋭かった。ギード個人の利害はともかく、ビルウェン王国としての報酬も要求されなくてはおかしい。そこを曖昧にしておいては何も始められないのだ。ギードはニヤリと笑って口を開いた。