捨てられ仮面令嬢の純真
夕食の席で、レオは素っ頓狂な声をあげた。
「――セレスちゃん、だと?」
浮気疑惑をなんとかしたレオは、その日の外出について聞かせてもらっているのだった。パン屋のおかみのノリは相変わらずで頬が引きつる。
「セレスティーヌのことを、そんな……」
「私はかまいませんけど……レオさまはお嫌ですか?」
「いや、そういうわけでは……」
街の人々と仲良くなれて嬉しいセレスは楽しげに微笑む。その気持ちに水を差すのははばかられ、レオは黙った。
嫌ではない。違うのだ。ただ……。
(ズルい)
レオは今でも礼儀正しく「セレスティーヌ」と呼んでいるのに、何故パン屋が距離を詰める。
難しい顔でうつむいてしまったら、後ろでダニエルとアネットがため息をついた。
((愛称で呼びたいなら、そう言えばいいでしょうがっ!))
二人分の念が送られる。それを受け取ったのか、レオはグッと顔を上げた。真剣なまなざしだ。
「俺も……その……セレス、と呼んでもいいだろうか」
決闘を申し込むように重々しく言われたセレスは一瞬キョトンとする。だがすぐに、嬉しそうに照れた。
互いに好き合っているのに何を今さら。不器用な主人夫婦に、館の人々の心配は尽きない。