捨てられ仮面令嬢の純真
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「レオさまが……戦場へ」

 話を聞いたセレスは血の気が引くのを感じた。並んでソファに座るレオが、セレスのふるえる手を包んでくれる。
 ここは館の居間だった。主人の出征という重大事なので執事ダニエルと家政婦長アネットも同席し国王からの命令を聞かされている。

「それは、陛下がお決めになったのですか」
「俺の領地のことだから当然の人選だろう?」

 セレスの瞳が揺れたのを見て、レオはなだめた。リュシアンの嫌がらせではと邪推したのを飲み込み、セレスは深呼吸する。だってミレイユならばそんなこともおねだりしそうだ。
 妹に対してひどい認識なのだが、セレスもレオも裏で糸を引いているのがマティアスの方だとは思いもしなかった。

「いつ、お発ちになりますか」

 実際的な発言はダニエルだった。ここは執事として留守を預かる腕の見せどころ。青ざめてしまったセレスを支え、奮闘するしかない。

「早々に。もう国境に兵が展開しているのだからな」
「かしこまりました。ではオスーフと砦に関してまとめた資料をすぐに用意いたします。道中お読み下さい」
「資料?」
「奥さまが主導して作って下さいました。町と付近の村々もふくめた産業分布、砦の兵士の勤務状況など、参考になるかと思います」
「……それはすごい。目を通そう」

 セレスは館で遊んでいるのではなかった。そんな地道なことを、とレオは感激したのだが、セレスは悲しげにする。

「……戦いに備えたわけではありませんのに」
「そう言うな。すぐに戻るよう努力する。俺の留守の間は、兄がこちらのことも気にしてくれると言っていたから何かあれば連絡を」
「お義兄さまですか?」

 とはいえ宰相補佐官のマティアスは、国難の時期に忙しいのではないだろうか。頼るようなことなどないといい、とレオもセレスも願った。


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