捨てられ仮面令嬢の純真
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 王宮が揺れたのは厳冬の頃だった。ビルウェンのベーレンツ伯爵が国境に兵を出したというのだ。

「くそっ、ビルウェンめ! 戴冠式の折にも抗議しておいたのに……!」

 駄々っ子のように悔しがったのはリュシアンだった。思うようにならないことがあると怒鳴るのだから子どものよう。宰相ラヴォー公爵以下、要職にある貴族たちはこっそりため息をついた。
 会議室に集まった面々は国王をそっちのけに話を進めるしかない。実務は臣下がするものと認識して任せてもらえるのは、ある意味ありがたいことだった。マティアスはさりげなく話を自分の構想へ持っていく。

「相手方の兵は多くないと報告が上がっています。ひとまずオスーフの領主に兵を任せてみては」

 指揮権をレオに、という提案へ目立った反対は出ない。

「貴殿の弟君だったな。確か、軍事に秀でているのだったか……」
「いや、彼は騎士ではあるが、軍の運用はできるのか?」
「それは私が保証しよう」

 レオが個人的に教えを乞うた将軍がどっしりうなずいて話の流れは決まった。
 王国軍から小部隊を率いてレオが急行し、砦の兵と合流する。王都では援軍の準備をしつつ、現地の情勢を見守る。そんな体制なら自分にあまり影響はないのでリュシアンも文句は言わなかった。

「ふむ。レオは信頼する我が従兄だ。やらせてみよう」

 何故か上から言われたが、マティアスはうやうやしく頭を下げた。その目をのぞき込めば底冷えする光があるのだが――リュシアンはそんなものには気づいていない。



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