からかわないでよ、千景くん。
「ゴホッ、ゴホッ…」
「だ、大丈夫!?」
千景くん、風邪!?
私に咳がかからないように、手を当ててそっぽを向く。
「ゴホッ…ごめん、大丈夫」
ええ…ほんとに? 顔色も悪いし、声もかすれてる。
「キス、できないね」
「へ…」
「まあ、キスじゃなくてもできることはあるけどね」
「なに言ってっ…!」
また、ゴホッと咳き込む千景くん。
もう、千景くんのバカ。私の反応見て笑ってる場合じゃないでしょ。
でも—— その笑顔が、少しだけ嬉しくて。少しだけ、切なくて。
「ねぇ、なずな。さっき言ったこと後悔しないでね」
さっき言ったこと…?
千景くんの言った通り。
“平さんと仲良くしていいんじゃないかなっ、隣の席だしね”
あれは、私の本音じゃなかった。
ほんとは—— 仲良くしてほしくない。私だけを見てほしい。
でも、そんなこと言ったら、嫌われちゃうかもしれないって思って。
だから、自分で言ったくせに…私は後々、後悔することになる。
「……千景くんの隣、私がよかった」
小さくこぼれた本音は、咳の音にかき消されてしまった。
でも、千景くんの目が、少しだけ優しく揺れた気がした。