からかわないでよ、千景くん。
「千景は何があったか知らないだろうけど!」
志緒ちゃんの声に、ドキッとする。
(…言ってない)
保健室で千景くんに会ったことも。
絆創膏を貼ってもらったことも。その上に、キスされたことも——
誰にも言ってない。
「何があったの?」
千景くんが、しらじらしくそう聞いてくる。
その顔は、いつも通りの無表情。
でも、目だけが、どこか楽しそうに揺れていた。
(知ってるくせに…)
「二人三脚の練習で転んだの」
私は、できるだけ普通の声でそう答えた。
千景くんの視線が、また膝に向く。