からかわないでよ、千景くん。
クラスメイトの、千景くん。
体育祭まで、あと一週間。
教室では、プラカードの絵や旗づくりで大盛り上がり。
絵具の色を混ぜながら、私は筆先に集中していた。
わいわいがやがや、みんな楽しそうで—— その空気が、ちょっとだけ心地よかった。
そこへ、志緒ちゃんが筆を持ってやってきた。
「いいの、あれ?」
「ん?」
なんのこと?と顔を上げる。
志緒ちゃんが筆でさした方向を見ると—— 教室の隅で、千景くんが女の子と2人でしゃがみながら色を塗っていた。
「いいの?って…?」
私は、志緒ちゃんの言葉の意味が分からなくて、首をかしげた。
すると——
「鈍い!鈍すぎる!」
志緒ちゃんが、勢いよくバケツの中に筆を突っ込んで、ぐるぐるかき混ぜる。