エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 弁護士に相談しましょう、と正俊さんは言った。学生時代の同期を当たれば何人か……とスマホを取り出した正俊さんの袖を掴んだ。

 緩く首を振って、私はぎこちなく笑う。

「大丈夫です。芙美子さんの言う通りだから。権利が私にあっただけで、みんなのおうちでした」

 正俊さんが目を見ひらく。

「芙美子さんとお姉ちゃんが相談してあの家を売ると決めたなら、そうするべきです」

 そこまで言い切って、目元の涙を手の甲で拭った。泣いたりなんて、するべきじゃなかった。

「ごめんなさい……突然のことだったから、びっくりしちゃって」

 泣いたりしてごめんなさいと続けて、ソファから立ち上がった。顔を洗いに行こうと思った。

 正俊さんが、私の腕を掴んで引き留める。

「俺は、真理菜さんの意思を守る。でも、」

 言葉を迷わせる彼に、ありがとうございますと微笑む。

「正俊さんがそんなふうに言ってくれるから、私は大丈夫です」

 正俊さんは目を眇めた。もしかしたら、もっと何か言葉を掛けてくれるつもりだったのかもしれなかった。

 でも、私はそれを待たずに洗面台へ向かった。メイクも涙でぐちゃぐちゃのはずだから、そんな顔をずっと見られるのは恥ずかしいという気持ちもあった。
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