私なんかが神様のお嫁さんになりました

生贄


この村には古くからの言い伝えがある。


疫病、災害、凶作などが数年続くときは神様に生贄を差し出す。


神はその生贄と引き換えに村を救ってくださると…。




「杏(あん)なにをぐずぐずしているの!床がまだ汚れているわよ…まったく掃除もろくにできないのかねぇ。」

ここは村政や神社の祭りごとを司る名主の財前家。
杏は義母に今日も厳しい言葉を浴びせられていた。


旦那様は以前に下働きの女中に手を出した。
そしてその女中に子供が生まれた。
その女中は子供を連れて自分の故郷へと帰ったのだが子供がまだ5歳の頃、病に倒れ間もなくして亡くなってしまったのだ。
財前家は仕方なくその子を引き取ることになった。

その子供が杏である。

しかしその扱いは酷い物で、女中以下の扱いをされて食事も一日一食で朝から晩まで働き詰めだ。
杏の一日は財前家が仕える神社の掃除から始まる。
まだ太陽が昇らない暗いうちから始めるのだ。
庭の掃き掃除、境内の拭き掃除、隅々まで綺麗にした後は神様に祈りを捧げる。
夏の暑い日も雪の降る日も一日足りと休まず行う。
神様への御祈りは杏の自己流だが、小さい頃お母さんと一緒に神様が祭られているという祠でお祈りしたことを思い出しながら祈りを捧げる。
まだ5歳だった杏の記憶に不思議と祈りの儀式は残っているのだった。
お母さんはお祈りをしながら優しい歌を歌っていた。
意味は分からなかったが神様に捧げる歌だと聞いていた。
いろはにほへと…と歌詞が続いていく優しく美しいメロディーだ。
やさしいお母さんの顔はぼんやりとしか覚えていないが、この歌はなぜか鮮明に覚えているのだった。

杏は毎日この神社でお祈りと歌を捧げている。


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