この歪んだ愛、いっさい油断なりません。

1話 夜の屋上にご注意



◯冒頭 雑居ビルの屋上・夜9時くらい
夜空の下、屋上に設置してある柵を超えて、1歩間違えば落ちてしまいそうな位置に立ってる結都がゆっくり振り向く。
結都の服装は全身真っ黒(上は少しダボッとした服装&フードをかぶってる)顔を隠すためのマスクも黒。
鈴音は少し離れた位置に立ってる感じ。
振り返った結都のオーラがすごすぎて(この世のものと思えないくらい)思わず固まる鈴音。鈴音は学校からバイト帰りなので制服。
鈴音の腕をつかみながら、結都がマスクをグイッと下げてひとこと放つ。
鈴音(満月に照らされた彼は、どこか放っておけなくて、一瞬たりとも目が離せないほど)
結都「俺のこと本気で愛してよ」
満月に照らされてる結都の魅惑的な表情。
この歪んだ愛、いっさい油断なりません――。


◯鈴音バイト先から帰るところ・夜
冒頭シーンの数時間前。ヒロイン鈴音のバイト先は小さなカフェ、ホールスタッフでバイトしてる。
鈴音の容姿:身長155センチ前後(平均くらい)胸につくくらいの毛先内巻き、ブラウンカラー。小顔、ぱっちりした目がトレードマーク。
鈴音「お疲れさまでした! お先に失礼しますー!」
バイト先店長「はーい、お疲れさま! 気をつけて帰ってね」
バイト先店長は30代後半くらいの女性。
バイト先があるのは駅から少し外れたところ、雑居ビルが多い、人通りもあまりない。
駅までひとりで歩いて帰る途中。
鈴音「んー、今日も1日がんばったぁ……」
腕をぐいーっと上にあげて、夜空きれいだなってふと見上げた瞬間のこと。
鈴音(ん……? ビルの屋上に人影?)
最初は気のせいかと思った鈴音。もう一度目をこすって屋上を見ると、月明かりに照らされて人がはっきり見えた。
驚いて目を見開く鈴音。
鈴音(なんであんな場所に立ってるの……? まさか何かよからぬことを考えてる⁉)
助けないとという気持ちでとにかく必死にビルの外にある階段を駆け上がる。
息を切らした鈴音が屋上に到着、勢いよく扉を開ける。
音に気づいて、柵を越えた場所に立っている結都がゆっくり振り返る。
フードをかぶってる&黒マスクをしているので、鈴音の位置からだと結都の顔はまだはっきり見えていない。
鈴音「あのっ、そんなところで何してるんですか?」少し息切らしてる&必死な感じ
鈴音の質問に対して、ゆっくり首を傾げる結都。
結都「……何してるように見えた?」
鈴音「危ないところに立ってるから。何かあったのかと思って」
少しの沈黙の後。
結都「死のうとしてた」
あまりに衝撃的で、結都の行動と言葉が一致しすぎて、一気に現実感が増してどうしたらいいかパニックになる鈴音。
鈴音(とりあえず、いったん落ち着かせるのが先……? いや、まずは彼の立ってる場所が危なすぎるから、説得はそれから……? 無理やりにでもこっち側に引っ張ったほうがいい……?)
いろんな考えがグルグル駆け巡って、どうしたらいいかひたすら悩んでいる表情の鈴音。
鈴音(とにかくこんな危ないことダメだ、なんとか説得しないと)必死な鈴音。
そんな鈴音の表情を見てフッと笑う結都。
結都「……なんてね」
夜空を見上げながら、鈴音のほうは見ていない。
鈴音「は……い……?」
結都「……そんな顔しないで。さっきの嘘だから」
考えていたものがぜんぶバンッとはじけて、いったん思考が止まりかける&間抜けな声が出る鈴音。
ものすごく心配した気持ちを台無しにされた気分になる鈴音。下を向いてうつむいてる感じ。
鈴音(屋上で彼の姿を見かけてから、ここまでたった数分間の出来事が心臓に悪すぎた。でも、わたしも早とちりだったかもしれない)少し反省してる感じ
鈴音(とりあえず、大きな事件にならなくてよかった)
黙り込んでる鈴音のところへ柵をひょいっと軽々しく乗り越えて近づいてくる結都。
結都「もし俺が死ぬって言ったら止めてくれた?」
鈴音「あ、あたりまえでしょ!」
結都「俺たち今日はじめて会ったのに?」
鈴音「そんなの関係ないよ! 死ぬなんて簡単に言っちゃダメ……ぜったい」
鈴音は2歳のころ、父親を不慮の事故で亡くしているので、誰かが死ぬことで残された人間の悲しさをわかっている。
さらに鈴音との距離を詰める結都。
それに気づいた鈴音がゆっくり右手を伸ばして、結都の服の裾をつかむ。まだ下を向いてる状態。
鈴音「もう二度とこんなことしないで」
結都「……んー、それは約束できないね」
鈴音「どうして。心配する人の気持ち考えたことある?」
結都「…………」
鈴音「人の気持ちをもてあそぶ人は嫌い。こんなことして、人の気を引きたいとか思ってるんだったらそれはやめたほうがいいよ」
鈴音(は……初対面の人に感情的になりすぎた。彼にも何か事情があるのかもしれないのに決めつけるようなことを言ってしまった)
何をこんな感情的になってるのか、また反省。
結都「んじゃさー……」
またしても屋上の柵を越えようとしてる結都。
結都「キミが俺の命拾ってくれんの?」
鈴音(ちょっ、今のわたしの話聞いてた……⁉)
結都「俺が二度とこんなことしないようにさー……手錠でもつないどく?」
鈴音に向かって右手首をひらひら見せる結都。鈴音から見て結都の表情は相変わらずあまりわからないまま。
コイツやばいって顔をして、ゴクッと唾を飲む鈴音。
鈴音(やっぱりこんな人放っておいて、さっさとここから逃げたほうがいいかも)(でもこのまま放っておいたら……)
翌朝テレビで屋上から男性が飛び降りみたいなニュースが鈴音の頭の中で流れる。
鈴音(うん、やっぱりまずい……)
なんだか放っておけない、何か惹き込まれるものがあると感じる鈴音。
鈴音(あぁ、もう……! こうなったら……!)
勢いで結都に抱きついて(ほぼ無理やり)そのまま鈴音が地面に押し倒す。
やってしまった顔の鈴音。結都はパーカーが少しずれて目元がはっきり見える感じ。
無理やり止めたけど、この先どうしたらいい状態の鈴音。
結都「わー、女の子に押し倒されたのはじめてー」棒読み
なんてことしてしまったんだって顔をして、慌てて結都の上から退こうとする鈴音。
それに気づいた結都が鈴音の後頭部に片手を添えて、逃がさない。
結都「人間って生きてたら嫌なことだってあるでしょ。スイッチ切れたときにここで見る夜空が好きなんだよね」
雲で隠れていた月が出てきて、はっきり結都の顔が照らされる。
結都から見たら鈴音が月明かりで光って見えた感じ。
鈴音(うわ……瞳めちゃくちゃきれい。マスクで顔は隠れてるけど、目元だけでもイケメンなのがわかる)
思わず見惚れる鈴音。何秒間か鈴音と結都がじっと見つめあってる感じ。
結都「よく俺のこと見つけたね」
鈴音「え?」
結都「俺よくここにいるけど、俺に気づいてここに来たのはキミがはじめて」
身体をむくっと起こして立ち上がり、再び夜空を見上げる結都。
鈴音にはギリギリ聞こえないくらいの声の大きさで「あーあ、お気に入りの場所だったのに」見つかって残念って感じの声。
結都「何したら黙っててくれる?」
鈴音「別に言いふらしたりしないよ。ここ好きな場所なんでしょ?」
結都「いま写真とか動画撮るチャンスじゃない?」
結都は同世代に大人気、話題沸騰のモデル『ユイ』。とくに女子中高生の間で人気で、結都を知らない子はほとんどいないんじゃないかってくらい。
結都にとっては芸能人だからって理由で、一般の人に見つかると写真や動画を撮られるのがあたりまえになっていた。
今回のことも、鈴音が自分のことをSNSで目撃情報みたいな書き込みを載せるんじゃないかと思っていた。
鈴音は芸能人の情報にものすごく疎いので、結都のことを知らない。
鈴音「いや、この状況であなたにカメラ向けるほうがおかしくないかな?」
驚く表情の結都。もしかして、自分のことを知らない子なのかってなんとなく気づく。
何も知らない状態で自分に接してくれた、声をかけてくれた鈴音に対してなんとなく興味が湧く結都。
結都「みーんな目の前にいる俺より画面の中にいる俺に夢中だからさー……」
結都の言ってることがイマイチ理解できない鈴音、少し困惑の表情。
結都「けど、キミはいま目の前にいる俺をちゃんと見てくれてるわけだ」
再び鈴音のほうに振り返る結都。
結都「ははっ……いいね」
鈴音「なに、が?」
鈴音(いま笑える要素あった?)
結都「俺さー、キミみたいな子を求めてたかもしれない」
素の自分(芸能人としてじゃなくて)と接してくれる、ちゃんと叱ってくれる、真っすぐ言葉にしてくれる鈴音のような子をやっと見つけたみたいな目と表情。
かぶってたパーカーを取って、マスクをグイッとずらした。
強すぎる顔面、不敵な笑み、艶っぽい感じで片方の口角を上げて笑ってる結都。
ここではじめて鈴音がしっかり結都の顔を見る。結都の容姿:身長180センチ、真っ黒の髪、すべてを見透かしてるようなきれいな瞳、立派な鼻筋、薄い唇、顔小さい。
整いすぎていて、数秒間釘付け状態。惹きつけるオーラが半端じゃない。
結都「俺のこと本気で愛してよ」
あまりに突然すぎる&ありえないセリフに呆然の表情の鈴音。
鈴音(まってまって、いろいろとぶっ飛びすぎてない?)
初対面に言うセリフじゃないと思う……なんて冷静な思考とは裏腹に、結都の魅惑的な表情に一瞬ドキッとする鈴音。
ここで結都のスマホが鳴る。マネージャーから着信。
結都「あー、いま現場の近くのビルにいる。すぐ戻るから」
軽く話してから電話を切る。そのままふらっと鈴音が上ってきた階段のほうへ。
最後に鈴音の腕を引いて、鈴音の耳元でささやく。
結都「また俺のこと見つけて」
そのままその場を去っていく結都。残された鈴音は今まで何が起きてたのか頭の中の処理がうまく追いついていない状態。
鈴音(見つけてって言われても……名前も年齢もどこに住んでるのかも知らないのに)
結都の言動を思い出して、胸のドキドキが収まっていないことに気づく鈴音。
鈴音(もう会うことだってない……だろうし)
ドキドキ静まれ……!と思いながら、自分を落ち着けようとする鈴音。
きっと彼は気まぐれな人なんだ。とりあえず、最悪の事態にならなくてよかった。
そのまま鈴音も屋上をあとにする。今さっきあったことは忘れようと思いながら駅の前を歩く鈴音。
その背景にビルの大きなスクリーン。そこに映るモデルとしての結都。
鈴音はスクリーンに映っている結都には気づかず、スルーしてスタスタ歩いているような感じ。


*場面転換


◯鈴音の家・リビング・朝
働いてる母のために朝ごはんを用意して、テーブルに並べる鈴音。そこにスーツ姿の鈴音母が支度をしながら慌ただしくリビングへ入ってくる。
鈴音「お母さんおはよう。朝ごはん食べる時間ありそう?」
鈴音母「鈴音~いつもありがとうね! 朝一でミーティングあるけど、なんとか間に合いそう!」
鈴音母が腕時計をつけながら着席、鈴音がコーヒーを用意して鈴音も着席。
鈴音母「そういえば、1週間後のことなんだけど……バイト休み取れそう?」
鈴音「うん、大丈夫だよ。お母さんにとって大切な日だもん」
鈴音母「ごめんね。お母さんの都合で……鈴音にはいろいろ苦労かけちゃってるし……」
1週間後は鈴音母の誕生日。その日に、鈴音母が再婚を考えてる人と食事をすることになっている。
鈴音母との再婚相手とはなかなか時間が合わず、正式に会うのが鈴音母の誕生日当日。ただ、鈴音母から相手の人柄とか話はたくさん聞いている。
鈴音がバイトをしているのも、母の負担を減らしたいから。大学に行く資金を少しでも自分で貯めて、早くから自立するのが目標。あと、少しでも家にお金を入れるため。
鈴音母「前からずっと考えていたんだけど……鈴音さえよければ、鏡見さん(再婚相手)と一緒に暮らしたいと思ってるの」
少し申し訳なさそうな表情の鈴音母に対して、なんともなさそうに笑う鈴音。
鈴音(わたしのお父さんは、わたしが2歳のころに不慮の事故で亡くなっている。そこからずっとお母さんがひとりでわたしを育ててくれた。そんなお母さんの幸せを願うのは、娘として当然だと思う)
鈴音「お母さんが決めた人なら、わたしは反対しないよ。お母さんが幸せになることがわたしにとっても幸せだし!」
鈴音母「うぅ、鈴音~!! なんていい子なの、ありがとう~!」
鈴音「はいはい。ほら、あんまりゆっくりしてるとミーティング遅れちゃうよ!」


*場面転換


◯1週間後、鈴音母の誕生日当日・夜レストランで食事
鈴音母と鈴音がテーブルに向かうと、すでに鈴音母の再婚相手、鏡見真一が席にいた。ふたりに気づいて、立ち上がって迎えるような感じ。
鏡見「はじめまして、鈴音ちゃん。今日は来てくれてありがとう」
鈴音「こちらこそ、今日はよろしくお願いします……!」
ぺこりとお辞儀する鈴音。穏やかそうで、あたたかい笑顔で迎えてくれてホッとした表情。
鈴音(よかった……すごく優しそうな人だ)
3人で食事スタートかと思いきや、鏡見が腕時計で時間を気にするそぶりを見せる。
このとき、鈴音は3人で食事をすると思っている。鏡見に息子がいるとは聞いてなかった。
鏡見「間に合いそうにないかな」
鈴音母「やっぱり時間押してるのかしら? 忙しいのに無理言って今日にしてもらって申し訳ないわ」
鏡見「いや、もうすぐ到着するだろう。大切な日だっていうのに、なかなかそろわなくてこちらこそ申し訳ないよ」
鈴音(あれ、食事って3人じゃない? 他に誰か来る予定――)
ふたりにたずねようとした瞬間、それを遮るように颯爽とやってきた結都。
結都「遅れてすみません」
結都の姿を見て、一瞬固まる鈴音。
鈴音(ん……? この男の子どこかで見たことあるような)
鈴音「あー!! この前、屋上にいた……!」
思わず声を出してしまって、ハッとして口に手をあてる仕草をする鈴音。
そんな様子の鈴音を見て、フッと軽く笑ってる結都が鈴音にゆっくり近づく。
結都「また会えたね」
このときふたりは至近距離で向き合ってる感じ。
結都父にうながされて結都も席に着く。
鈴音の頭の中はパニック、目の前を流れる状況を処理するために頭の中フル回転。
結都父「紹介が遅れてしまったんだけど、わたしの息子の結都です。鈴音ちゃんのひとつ上で、いま高校3年生なんだ」
鈴音(む、息子……⁉ ということは、お母さんと鏡見さんが再婚するってなったら、彼はわたしのお兄さんになるってこと⁉)
結都父「結都と鈴音ちゃんが会うのは今日が初めてかな」
鈴音(いや、この前夜の屋上でとんでもない出会い方をしてます……なんて今ここでは言えない)
鈴音母「でも、結都くん売れっ子モデルさんだから鈴音も知ってるんじゃないかしら?」
鈴音(売れっ子モデル……? いや、たしかに顔面めちゃくちゃ強いなとは思ったけど)
いま、SNSで話題沸騰の人気モデル『ユイ』。同世代の間では彼のことを知らない子はほとんどいないんじゃないかと言われるくらい。
顔が天才的すぎて、神が全力を注ぎすぎた力作と言われるくらい。そして、ついたあだ名は生きてる顔面国宝。
まさかいま目の前にいるのが『ユイ』だなんて、現実味がまったくない。
結都「これからよろしくね、鈴音ちゃん」
満面の笑みの結都と、頭を抱えてありえないって表情をしてる鈴音。
まさかこんなかたちで再会&兄妹になるなんてあり――⁉


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