この歪んだ愛、いっさい油断なりません。

2話 情報錯綜




◯学校・お昼休みの教室 鈴音と鈴音のクラスメイト2人
今をときめくモデル『ユイ』――。爆発的な人気と圧倒的なビジュアルの良さから、いま最も勢いがあるといわれてるモデル。
各方面のSNSでは万バズが当たり前。アンバサダーを務めるコスメブランドは同世代から抜群の支持。
メンズ雑誌の表紙をしょっちゅう飾っており、ネットニュースのエンタメにも彼の記事が多数特集されるほど。
大げさながら、いま彼が街中を支配してると言っても過言じゃない。
まさか、そんな人気モデルが兄になり、一緒に暮らしてるなんて、口が裂けても言えるわけない。
なごみ「はぁ……もうイケメンは正義! このユイの目線見てよ、こんな目で見られたら命尽きるって……!!」
梨々花「さすが生きてる顔面国宝って言われるだけあるよねぇ。わたしもユイの顔好きっ」
友達ふたりとお昼を食べている間も、話題はユイについて。
なごみはスマホを触りながらユイの画像を鈴音と梨々花に見せてユイの魅力を熱弁してる感じ。
梨々花は話を聞きながら、スマホの画面で前髪を直してる感じ。
岸川なごみ(きしかわ なごみ):ボーイッシュな見た目。身長:160センチ前後。インフルエンサーオタク。
澤田梨々花(さわだ りりか):高い位置でツインテール、猫目、可愛いを集めた見た目。身長:150センチ前後。イケメンが好き、とにかく面食い。
鈴音(いつもふたりが話してたイケメンモデルが、まさか結都くんだったとは……)気まずそうに笑いながら、イチゴミルクのパックを飲んでる。
なごみ「画面越しでこれだけ破壊力あるって、実際会ったら気絶レベルだって!」
◯数日前の夜にはじめて結都と屋上で会ったときの回想
なごみと梨々花の声で回想から現在に戻る。
なごみ「ね、鈴音もわかるでしょ!」
梨々花「でもさぁ、すーたんはそういうの疎いからねぇ」
鈴音「あはは……たしかにかっこいいね」
笑顔引きつりまくりで、薄っぺらいことしか言えない鈴音。
梨々花「イケメンはどれだけ供給したって損しないもんねぇ」
なごみ「むしろ供給過多で願いたい!!」
鈴音(みんなの憧れでもある存在が――)


*場面転換


◯鏡見家リビング・夜
鈴音(ある日突然、兄になり……おまけに一緒に住んでるなんて絶対言えるわけない!!)
鈴音がお風呂から出てタオルで髪を拭きながらリビングへ。リビングのソファで横になってる結都。
両親は仕事のため、まだ帰ってきていない。
ソファでくつろいでいる結都を見ても、いまだにあの人気モデルのユイと一緒に暮らしているという実感がわかない鈴音。


◯4人で食事したときの回想
結都父『結都さえよければ、恵里さん(鈴音母)と鈴音ちゃんをわたしたちの家に呼んで4人で一緒に暮らしたいと思ってるんだ』
結都『うん、もちろん賛成だよ。こんな可愛い妹、逃がすわけ――いや、妹ができてうれしいよ』
もうすでに若干発言が怪しい感じの結都。
話し合いは順調に進み、休みの日に荷物をまとめて鏡見家へ引っ越すことに。


◯回想から戻る 再び鏡見家のリビング
こうして現在に至るわけで――。
鈴音(なごみちゃんや梨々花ちゃんにこのこと言ったらびっくりするだろうな。いや、あまりに非現実的すぎて逆に信じてもらえないかも)
友達ふたりからユイの話を聞いて、鈴音も自分なりにユイのことをネットで調べた。
とりあえず『ユイ』のSNSアカウントをチェック。SNSアカウントはほぼ公式アカウント化されており事務所が徹底管理。
そのため、ユイの私生活などの情報はあまり明かされていない。謎のベールに包まれている。
タオルで髪を拭きながらスマホを触る、『ユイ』のSNSフォロワー数を見て、おったまげる鈴音。
鈴音(これだけ有名なのに、ユイのことをほとんど知らなかった自分の情報の疎さにびっくり……というか、若干引いてるまである)
リビングで突っ立ったままスマホを眺めてる鈴音。それに気づいた結都が鈴音に近づく。
結都「あー、それ俺のアカウントだ? 興味持ってくれた?」
鈴音の目の前に立って、上からスマホを軽くのぞき込む感じで。
鈴音(この万バズ常連の生きてる顔面国宝が目の前にいるって、現実味なさすぎてバグ起きそう)
鈴音「やっ、興味というか……情報収集?」
結都「やっぱ俺のこと知らなかった?」
鈴音「うぅ、ほんとにごめんなさい……。芸能人の情報とかほんとに疎くて」


◯数日前のバイト帰りの回想
バイト帰り、ふと駅の近くにあるビルの大きなスクリーンを見ると、結都が映ってるのを発見して驚いている鈴音。
鈴音(あ、あれ結都くん……⁉ うそ、こんな目立つくらいの有名人だったのに、なぜわたしは気づかなかった⁉)
周りでも『ユイ』かっこいいよね的な声が聞こえる。
ほんとに至る所で話題になってるんだと実感する鈴音。


◯回想から戻る
結都「すず……ね」
鈴音「…………」
結都「鈴音?」
鈴音「…………」
結都「返事しないとキスしちゃうよ」
鈴音「……っ⁉ な、なっ、近い!!」
結都が鈴音の顔を覗き込む感じ。ふたりの距離感はかなり近め。
結都「あー、おしいな。あとちょっとでキスできそうだったのに」
鈴音「変なこと言わないで!」
結都のぶっ飛んだ発言に戸惑いまくりの鈴音。慌てて結都から離れようとしたら腕をつかまれて逃げることできず。
結都「髪乾かさないと風邪ひくよ」
結都がドライヤーを持ってきて、鈴音の髪を乾かしてあげることに。
鈴音はソファに座って、その後ろから立ってる結都がドライヤーを持って乾かしてる感じ。
結都「はぁ……いいな」
鈴音「何が?」
結都「鈴音が俺と同じ匂いなの……あー、このままひたりたい」
鈴音(ひたりたいって、斬新すぎるワードセンス……)
鈴音(これ、兄じゃなかったらちょっとやばいような。いや、兄でもギリアウト?)
結都「そうだ。これからは俺が毎日鈴音の髪乾かすよ。あっ、あと鈴音の部屋着も俺が選ぶよ、なんなら鈴音が身につけるものぜんぶ――」
鈴音「むりむり、そこまでしなくていいよ‼︎」
こんな感じで、少し……いや、だいぶずれてるところが玉に瑕。


*場面転換


◯鏡見家・洗面台の前・朝
洗面台の鏡の前で髪を巻いて、リップを塗ってる鈴音。
鈴音「よしっ、準備できた」
そこに寝起きの結都が入ってくる。上半身裸で若干寝ぼけてる、まだ眠そうな感じ。
服を着てない結都に動揺しまくりの鈴音。すぐさま洗面所から立ち去ろうとしたら結都に腕をつかまれる。そのまま壁にドン。
結都が片手で壁に手をついて、鈴音の全身を覆ってる、身長差ある感じで。
突然のことすぎてどこに目線を向けたらいいのかあたふたする鈴音。
鈴音(なにこれなにこれ……! 結都くん寝ぼけてる⁉)
あたふたする鈴音におかまいなしで、鈴音の顎に軽く指先をそえてクイッとあげる、バチッとふたりの目線が絡む。
結都「あー……リップ色変えた?」
鈴音の下唇の少し下あたりを親指で軽くなぞる感じ。
結都「あと前髪少し切ったでしょ」
鈴音のおでこに軽くキスしてくる。
結都「ぜんぶ可愛い」照れた様子もなく、笑いながら。
鈴音「っ……⁉」
鈴音(芸能人とかお兄ちゃんとか以前に、男の子が同じ家にいるということに慣れない!)(こんな非日常的なシチュエーション、いろいろ情報過多すぎる……!!)
鈴音の些細な変化にも即気づいてストレートに言葉にする結都。


*場面転換


◯鈴音バイト帰り・家の近く・夕方
バイトから帰ってくると家の近くに女子高生が3人いるのが見える。建物の影に隠れて何かを待ってる様子。
3人組の近くを通り過ぎたとき、ユイがこの辺に住んでいて、家を特定するチャンスだという会話が聞こえた。
みんなスマホを構えてユイを目撃したら撮ろうとしてるのがわかる。
鈴音(いや、これもう犯罪じゃん。芸能人だって、プライベートがあるはずなのに。こんなことしていいわけがない)
女子高生たちに声をかける鈴音。3人ともいきなり鈴音に声をかけられて「は?」って顔をしてる。
鈴音「あの、もしユイのプライベートを詮索してるとかならそれはよくないと思うので、今すぐここから立ち去ったほうがいいと思います」
モブ1「はぁ⁉ アンタ誰? ってか、どの立場で言ってんのよ」
声をかけたはいいけど、この場をどうやって収めるのがいいか考えた結果。
鈴音「い、妹として……! 兄のプライベートが詮索されるのは許せないです」
鈴音(うん、これが今この場では最適……なはず!)
3人の視線が一気に鈴音に集まる。
モブ2「ユイって兄妹いた?」
モブ3「そんなの聞いたことないけど……」
モブ1「でもプライベート謎だし、もしかしたら――」
女子高生たちがさらに鈴音をジッと見る。
モブ1「言われてみれば、ユイになんとなく似てるかも」
モブ2「たしかに……」
このまま穏便に収まるかと思いきや、ここで変装した姿の結都が登場。
鈴音「どーも。俺の妹になんか用?」
モブたち「キャー!! 本物のユイじゃない⁉」ものすごくキャッキャ騒いでる。
モブ1「あの、わたしずっとユイくんのファンで……!」
モブ2「どうしても一度でいいからユイくんに会いたくて!」
結都「……だからこうやって待ち伏せてたって?」
冷めた目でモブたちを見る結都。声も若干いつもより低い感じ。
その様子を見て、モブたちもやばいかもって顔になる。
結都「俺の大事な妹を巻き込もうとしたのが許せないんだよね」
顔は笑ってるけど、明らかにキレてる感じが伝わってモブたちは何も言い返せずに固まる。モブから鈴音を守る感じで。
結都「今回は見逃すけど……次はナシね」
結都「あと……妹のことぜったいSNSに拡散しないでね」
しっかり釘を刺す、モブたちは退散。


◯モブ退散後、家の玄関
結都が先に中に入って、鈴音が後に続いてる感じ。
結都「さっきのやつらから何もされてない?」
結都が鈴音のほうに振り返る。
鈴音「うん、大丈夫。あんな感じのファンの子ってたくさんいるの?」
結都「まあ、特定したがる子は一定数いるよね。こういう世界で活動してるとある程度は仕方ないって割り切ってるところあるし」
鈴音「……芸能人だからって、何してもいいって思われるのはなんか違う気がする」
結都「うん、そうだね。鈴音が俺のために行動してくれたのはうれしかったよ。けどさ、過激な子とかもいるから、あんま逆撫でしちゃダメだよ」
鈴音「でも……」
結都「鈴音になんかしたやつがいたら……俺そいつのこと消しちゃうかも」
冗談で言ってるとは思えないくらい、表情も声のトーンも本気。
鈴音にも理解できないほどの何か闇がありそうな結都。
一瞬、なんて声をかけたらいいか戸惑う鈴音。すると、すぐにいつもの感じに戻る結都。
結都「鈴音が俺に興味持ってくれるなら大歓迎なんだけどね」「俺はめちゃくちゃ鈴音に興味あるよ」「興味ありすぎておかしくなるかもしれない」
鈴音「その宣言はいらないよ」
ここで鈴音のスマホが鳴る。バイト先の店長からメッセージ。明日急きょシフト入ってくれないかって連絡。
了解ですのスタンプで返信。明日バイトになったことを結都に告げる。
結都「え、俺明日オフなのに……」
鈴音と過ごせるのを楽しみにしていたので、あからさまにショックを受けてる結都。
結都「あ、そうか。鈴音がバイトしなければいいんだ」
とんでもない考えにたどりつく。
結都「もうバイトしなくていいよ。欲しいものなんでも買ってあげる」
鈴音の両手を握って、キラキラした目で鈴音を見てる結都。
そんな結都に対して冷静に塩対応の鈴音。
鈴音「自立するために今から社会勉強したいし。大学も行きたいから、その資金も貯めたいし。だからバイトは辞めないよ」
結都「俺が一生養うからいいよ。今すぐ自立諦めて」
鈴音(なんでそうなる……! 世の中に妹の自立を諦めさせる兄がいる⁉)
結都「なんなら指輪買いに行く?」
鈴音「なんの指輪⁉」
結都「婚約指輪」
鈴音「真顔で言わないで! わたしたち兄妹だから!」
迫ってくる結都を押し切って、ひとり部屋に入っていく鈴音。
結都「はぁ……俺の妹が可愛すぎてしんどい」※この声は鈴音には聞こえていない。
こんな調子で、これから同居生活は成り立つんでしょうか?



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