毒舌男子の愛は甘い。






部屋に戻って、シャワーを浴び、ソファに沈み込む。


「……つかれた」


心の中でつぶやいて、スマホを手に取る。



連絡先を交換したばかりの「藤宮梓」の名前がメッセージ一覧に並んでいた。


(……今日は言いすぎたな)


少し反省していた。



自覚はある。俺の言い方は、ときどき人を傷つける。



けど、ああいうのを見てると、黙ってられない。


“また繰り返すんだろうな”って未来が、簡単に想像できてしまうから。


ふと通知が鳴って、梓からのメッセージが届く。



藤宮梓:
今日はありがとう。いろいろ言ってくれて、ほんとに嬉しかったです。
ちゃんと前向きに頑張ろうって思えました。
……あ、もちろんこれは“お友達として”のお礼です!(念のため)



(……強調するところ、そこ?)


ちょっと笑ってしまいそうになる。


変なやつだな、と思った。


でも、嫌な感じじゃない。



すぐに返信を打ち込んだ。



凪:
わざわざメッセージありがと。
素直に受け取ってくれるひと、珍しいから俺も嬉しかった。
あと、“お友達として”って強調するの、逆に怪しいから。




(まあ、慎重なのは悪くないけど)


続けて、もうひとつメッセージを送る。



凪:
まあでも、そうやって慎重になるのはいいと思う。
焦らなくていいから、次の男はちゃんと見極めて、選べ。



送信ボタンを押したあと、しばらくスマホを見つめたまま無言になる。


──変な子だったな、藤宮梓。


俺のキツイ言葉をそのまま受け止めようとする純粋さ。
ちゃんと自分のことを「わかりたい」って思ってる素直さ。



普通、ああ言われたら少しは怒るか、距離を置くかする。



でもあの子は、素直に頷いて、前に進もうとしてた。


(ああいうタイプ……悪くない)



本音を言うと、驚いてるのは俺の方かもしれない。



あんなふうにちゃんと、話を“聞いてくれる”人間、そう多くない。


梓からまた返信が届く。



藤宮梓:
ありがとう。
水野くんに言われたら、ちゃんと選ばなきゃって思えるかも。
また迷ったときは、相談してもいい?
(あくまで“お友達として”)



(またそれ言う)


苦笑しつつ、返す。



凪:
いいよ。毒舌でよければ。



送ったあと、スマホを裏返して、テーブルの上に置いた。



なんとなく、心がざわついてる。


ただの数合わせで出た合コンのはずだったのに。


今日出会ったばかりの女の子が、少しだけ、気になる。



自分でもうまく説明できない感情だけが、静かに胸の奥で灯っていた。



(……めんどくさいことにならなきゃいいけど)


そう思いながらも、そのメッセージ履歴を、ふたたび開いてしまう。



気がつけば、画面の中の“藤宮梓”という名前に、視線が吸い寄せられていた。




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