さくらびと。本編
第2章 届かない想い
有澤先生の左手薬指に光る結婚指輪。
その光景を目にした瞬間、蕾の胸に冷たいものが走り抜けた。
S症の患者さんの声に、耳を傾けながらも、頭の中は有澤先生の指輪のことでいっぱいになっていた。
彼は、もう妻を亡くしたばかりではないのか。それなのに、なぜ、指輪を外さないのだろう。
蕾の胸は、期待と失望の入り混じった感情で、激しく揺れ動いていた。
彼女は、自分の気持ちに無理やり蓋をするように、一層仕事に没頭した。