正宗先輩と初恋を拗らせる

好き以上

「正宗、2次会は?」
ひとしきり話し終えた同窓会が終わりに近づき
レイカが隣に座った。

「あ〜。どうしよっかな。」
大学から地元を離れたとはいえ
すぐ帰れる距離だから
目新しい人も話題もないし

何より、まだこの時間なら
ワンチャン美桜の顔も見れそうだしなぁ。

「あ、オガちんのこと考えたでしょ?」
ウヒヒヒ、としたり顔で笑い
肘で腕を突かれた。

「ちゃんと送ったんでしょうね?」
「一応ね。レイカはキューピーちゃんだよ。」
美桜を思い出し自然と顔が緩む。
「キューピットでしょ。ばか。
オガちん泣かしたらまつ毛抜くよ!」
高卒でアイリストになったレイカの職業ジョークに笑った。


「誰の話〜?」
女の武器フル装備のナオミが甘い声で割り込んできた。
彼女だった時期もあったけど
面倒が勝って卒業を機に疎遠になった。
あっちはそんな気ないんだろうけど。

「正宗のお姫様」
あ、バカ。余計なことを。

「え?だれ。」
ほら見ろ。
片眉が上がるのは
機嫌が悪い時のナオミの癖なんだぞ。

「私の可愛い後輩」
「緒方?」
すぐバレたってことは
当時から気づいてたよな。

「呼べば?」
「あ、いいね」
なんでだよ。
「とりま聞くだけ聞いて」
押し切られる形にはなったが
声を聞く口実ができたことは
ぶっちゃけ嬉しい。

あ、俺なんかキモいな。
酔ったかな。


trrrrrr....trrrrrrr.....

「はぁぁぁいー」
意外にもご機嫌すぎる美桜の声
「俺」
「はぁぁぁいー」
イクラちゃんみたいな応答の後ろから
賑やかな声が聞こえる。
「また飲んでんの?どこ?」
聞き耳立ててるレイカ達を忘れ
声が尖った。

美桜は、ここから二駅の駅名を答えた。
「大学のサークルでご飯してるのぉ」
語尾が少し甘い。
飲んでんな。
賑やかな声の中から
美桜を呼ぶ男の声がした。

美桜はきっと振り返ったんだろう。
話してた時とは少し遠い声で
「はぁぁぁいー」

俺にしたのと同じ返事をした。
俺だけの美桜は?


「来ないに1000円。だって昨日も会ったよ私」
レイカの呆れる声に
「来るわよ。1000円」
ナオミが乗った。


「美桜来て。ちょっと大変」
そう言って電話を切ると
位置情報を送った。


大変なことなんてない。
あえて大変と言うなら
俺の心の中が負の感情コンボしてることぐらい。

封印してた気持ちを美桜にぶちまけたら
もう抑えが効かなくて

俺だけ見て。
俺の事だけ思って。
俺の、俺の、俺のが止まんない。

うわ。俺、酔ってんな。


「正宗⋯?なんつー顔してんの」
レイカはドン引きしてるし
ナオミはなんか考えてるっぽい。
でも、そんなんどーでもいいや。
周りの声も姿も目に入らない。


早くあの場から美桜を引き剥がして
そばにおいて置かないと気が済まない。

嘘ついちゃうぐらい妬いちゃって。
俺どーかしてる。


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