氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 もしかしたら、ジークヴァルトの守護者であるジークハルトが起こした事に関しても、調査されるのかもしれない。リーゼロッテは無意識に自分の手首をぎゅっと握りしめた。

「リーゼロッテ様……」

 気づかわし気なエマニュエルの呼びかけに、リーゼロッテはそっと微笑んだ。

 ジークハルトがジークヴァルトの体を乗っ取ってリーゼロッテを襲った件について、あの日以来言及するものは誰もいなかった。公爵家では、そのこと自体なかったことにされている。
 強引につかまれた手首のあざはもうきれいに消えている。ジークハルトにも許すと言った手前、これ以上落ち込んでいても仕方がない。

「大丈夫ですわ、エマ様。……でも、そうするとアンネマリーには会いに行けないわ……」
「その件でしたら、公爵領に戻る途中でクラッセン家に立ち寄ればよろしいのでは」

 クラッセン侯爵領はダーミッシュ領より王都に近い位置にあって、少し遠回りになるものの公爵領に行く道すがら立ち寄れる場所にあった。

「まあ!それもそうですわね。でもアンネマリーの都合も聞かないといけないわ。わたくしすぐに文をしたためますわ」

 明るく笑うリーゼロッテにエマニュエルはほっと息をついた。

(旦那様のためにも……早く婚姻の託宣が降りればいいのに……)

 叶うことならリーゼロッテにはずっと公爵家でジークヴァルトのそばにいてほしい。
 託宣を受けた者はいつでも龍の気まぐれに翻弄される。自分にはどうすることもできないことは分かっているが、エマニュエルの中でただもどかしさだけが募っていた。

 数日後、リーゼロッテは急ぎ公爵領へ戻ることになった。半月足らずのリーゼロッテの帰郷に、ダーミッシュ家の者たちは落胆の色を隠せない。
 慌ただしく公爵領へと出発するリーゼロッテの背中を、一同は涙ながらに見送ったのだった。


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